すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『勇者』と認められる。

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古代語が廃れるまでに、どれだけの年月が経ったのだろう──何度転生を繰り返したからと言って、その身分が一定だったり上昇するわけではない。
むしろどの国に、どんな性別で、そしてどの家柄で生まれるのかなど定まっていないのだ。
悲しいことに私の転生では貴族になることなどほとんどなく、農民や孤児、狩猟を生業とする家系だったり、剣の覚えがめでたい一族の末席にいたこともある。
そのどれもがあまり大成せず、結局は学問に携わったり、魔法や魔術の才で取り立てられたりしたものだが、私の中に根付いている古代語だけは失われることはなかった。
今も結局はその記憶と才能のおかげで『大賢者』という身に余る称号もいただいたのだが、それが今後どのように役立つのかはわからない。
わかるのは──すっかり気弱な老人としか見えなくなったこの村長の助けとなる手段を、私が有しているということだった。
「物は相談なのですが………」


さすがにラダを迎えに行ったような飛竜の群れは来ず、王都から検証のための魔法研究所の者と国軍の兵が到着したのは、ケヴィンが使い魔を飛ばして20日以上も経ってからだった。
王都からやや距離があるとはいえ、これだけの日数がかかったのは単純に行軍する人数のせいばかりではなく、『誰が、どれだけ』参加するのかという議論が交わされた結果だろう。

おかげで私は誰にも邪魔されることなく──面白がって見に来た子供たちや、好奇心を携えたご婦人方が進んで私の解読場所として提供された家を掃除しに来てくれたぐらいで、順調に村記を現代語に訳すことができた。
村が有する紙はあまり量がなく、大きめの町か市に買い出しに行ってもらわねばならなかったが、それを渋る村人の護衛をケヴィンとデューンが買って出てくれたのも大変助かった。
ちなみにラダとミウは彼らがいない間の村の警備をし、パーティーメンバーの男どもがいない間に手を出そうとしたある意味『勇者』たちは簡単にのされ、以後は畏怖と尊敬の念を持って接せられるようになったのである。
「やっぱり…ここらへんって平和よ?魔素溜まりなんかも見当たらない。あんなに魔獣や魔物が寄り付く理由がわからない」
今日も村の外周どころか、近隣の森まで回ってきたラダが首を傾げる。
彼女の後ろには数人の屈強な男たちが付き従い、それぞれが手に森で狩った動物を持っていたが、それらを妻たちに捌いてもらうと言ってそれぞれの家に向かっていった。
そんな彼らの顔にも怪訝そうな表情が浮かんでいるのを見て、私もやはり首を傾げる。
「やはり普通の動物しか出てこない…と?」
「そう。鳥も鳴いているし、ウサギを追うキツネなんかもいた。ノームの村があるかどうかはわからないけど、少なくともロダムス村のような雰囲気は一切ない」
「……まあ彼らは特殊ですから。しかし逆に魔獣の類すらいない、というのは……」
「ここが魔族にとって居心地良い環境かどうかって言えば、ちょっと違う気がする」
ラダの言葉に、私も同意するように首を縦に振るしかない。


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