すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『勇者』と認められる。

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普通なら冒険者ギルドをいくつも経由して王宮にある冒険者ギルド本部に連絡が行くのだろうが、そこから先──国王たちにキチンと情報が届くのか怪しかったかもしれない。
あの王宮内冒険者ギルドの職員がパーティーの仲間であるミウへどんな接し方をしたかを憶えている私としては、それは甚だ疑わしいと思っている。

きっと彼らはこう言うだろう──「偽物だったのなら、別に報告しなくてもいいじゃない」と。

ただでさえ王都周辺のダンジョン攻略や魔物魔獣の討伐の報告を受けているのだ。
高レベルの冒険者を派遣してもらわねば解決しようがなかった今回の件だって、最寄りの冒険者ギルドに相談しても「金が無いのなら話を聞く価値もない」とそっぽを向かれ、村の外に出ないという方法でしか村民を守る手段がなかったのである。
私たちがこちらに来るという偶然がなければ、餓死とまではいかずとも、何らかの問題は発生していたはずだ。
もしくは他の村や町が気付かないうちに、『魔王が森にいる』という情報を流した人間の手引きで、この村は乗っ取られるか全滅させられていたかもしれない──なぜそんなことをする必要があるのか?という疑問は残るが。
「本当に……あの男たちはいったい何の目的で、我々の村のすぐ近くの森に魔王がいるなどと言ったのでしょうか……」
「何故……でしょうねぇ」
私が頭の中に浮かんだ疑問を、そばに来た村長がポツリと零す。
ミウとラダはすっかり懐いた子供たちに手を引かれてケヴィンたちの方へと行き、私は手酌で村の心尽くしをいただいていた。
「一部は嘘ではありませんでした。確かに多い数の魔物や魔獣は集まっていた……不自然なほどに」
「はい。元々この辺りはそんな危険な生き物なぞいなかったのです。祖先がここいらに住み着いてずいぶん経ちますが、理由は『戦う術を持たない我々でも安心してくらせる場所だから』とハッキリ残されています。よくわかりませんが、どうやらこの辺りには何か魔物を寄せ付けないモノがあるらしく、動物も少ないが肥沃で平らな土地があるのが自慢だったのです」
「魔物を寄せ付けない……?」
「どんなモノなのかの、どこにあるのか、それを記しているものがないので、我々にもソレが本当にまだここにあるのかも分からないのですが……」
「わからない?それはまた何故……?」
ゴホンゴホンと咳払いすると、村長はグッと身体を寄せ口元を手のひらで覆って、私に打ち明け話をする姿勢になった。
「……いや、おそらく記録はあるのですが……その……どこか異国の文字なのか、村にいる者では誰も読めないため、何が書かれているのかわからない、と……まさか村長までも読めないとは言えず……」
その顔は酒による酔いだけではない赤味で、どんどんと俯いていく。


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