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賢者、『勇者』と認められる。
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だがそれよりも気になるのは──
「あの……い、いったい……?」
「い…いいいえぇぇっ!!もっ、申し訳ありませんでしたぁっ!!」
私が恐る恐る振り返ると、ズザザッと音が立ちそうな勢いで村人たちが長を先頭として皆地面に額を擦りつけるような姿勢になって、私たちに向かってお辞儀をしていた。
「あ、あの……?み、皆さん……?」
「ほっ、本当に!本当に申し訳ございません!!偉大な魔法使い様だと信じませず!」
「ど、どうか!我らに御慈悲をっ!」
「すいません、すいません、すいません、すいません…ど、どうかお怒りを収めて、子供たちの命だけはっ……」
何だか聞き捨てならない言葉が続く。
「ミ、ミウ……これはいったい……?」
「あ、たぶん彼らは本当に魔法使いとか賢者様とか、傲慢な者しか知らないんだと思います。というか、パトリック賢者様の方が珍しいくらい人が良い方なんですよ」
「ちょっとぉ……アタシもそんなにヒトデナシじゃないからね?」
「あ、うん、もちろん!ちゃんとわかってるってば~。もぉ、ラダったらぁ~」
ツンと頭を反らして拗ねた表情をするラダを宥めるようにミウは飛びつき、ねぇねぇと腕に縋りついた。
もちろん本気ではなかったらしいラダもすぐに表情を柔げ、「冗談だよぉ~」と言いながらじゃれ合う女性たちは可愛らしいが、村人たちはとにかく『魔法使い』や『賢者』の機嫌を損ねないようにと頭を下げているらしく、ちっとも私たちの方を見ようとはしない。
おかげでせっかくの心遣いも伝わっておらず、私たちはどうやって彼らにこの改まった態度と姿勢を止めてもらったらいいかと、お互いに顔を見合わせるしかなかった。
ようやく顔を上げてくれた彼らは、私たちが皆揃って地面に座っているのを見て、また頭を下げようとした。
だがそれを阻止すべく私たちは素早く動き、村長夫妻の肩をそれぞれ抱いて立ち上がらせ、ようやく村人みんなに楽な姿勢になってほしいと頼むことに成功したのである。
こうなるのにかかった時間は大したことがないのかもしれないが、私が魔法陣結界に閉じ込めた魔物たちが焼き尽きるのを待つのより疲れてしまった。
とりあえずは捕らえた者たちを村にある家のひとつに閉じ込め、代わるがわる見張りに立ちつつ、ある意味脅威から解放されたことを喜ぶ野外料理が皆に振る舞われる。
「……これはこれで、どうなんでしょうねぇ」
「まあ……今まで恐怖の場所だった森が安全になりましたって言っても、いきなり確かめに行きたくはないんでしょう」
「それはそうですけどねぇ……」
隣に座ったミウに囁きかけると、苦笑を含んだ声が村人の心情を説明してくれた。
私が偽物だとか自称だとか思い込みだとか何故か『賢者』として見る目にあった猜疑は霧消し、代わりに「この方も立派な勇者様のひとり」と村長が直々に村人に紹介してくれたのも、この関係改善に役立ったのかもしれないが、この手のひら返しは何だと思わずにいられない。
「だいたい突然やってきた怪我人が『村の外は危険だ』と言ったから、全員が村に引きこもったっていうぐらいの人たちですよ?たぶんあまり危険な野生動物もこの辺りにいなさそうだし、人を疑うっていうこと自体があまりないんじゃないですか?」
「そうよねぇ……村が農業だけで成り立っていたって、けっこうな畑があるのにこんなに貧しいんだもの。あまり賢く生きてこなかったんじゃないかって思うわよ、アタシでも」
ミウとは反対側に座っているラダもヒョイと身体を前に屈めるようにして、私たちの会話に混ざる。
ちなみにケヴィンは子供たちにせがまれて、今までの自分たちの冒険を話しており、デューンは飲み比べを挑まれている。
私は身体が細いせいもあってあまり健啖家と思われていないのか、ミウやラダと一緒に目の前の皿から調理された肉を食べていた。
チラチラと視線を感じてはいるが、『勇者』と認められたとはいえやはり『魔法を使う者』ということで、私たちには話しかけづらいのかもしれない。
「あの……い、いったい……?」
「い…いいいえぇぇっ!!もっ、申し訳ありませんでしたぁっ!!」
私が恐る恐る振り返ると、ズザザッと音が立ちそうな勢いで村人たちが長を先頭として皆地面に額を擦りつけるような姿勢になって、私たちに向かってお辞儀をしていた。
「あ、あの……?み、皆さん……?」
「ほっ、本当に!本当に申し訳ございません!!偉大な魔法使い様だと信じませず!」
「ど、どうか!我らに御慈悲をっ!」
「すいません、すいません、すいません、すいません…ど、どうかお怒りを収めて、子供たちの命だけはっ……」
何だか聞き捨てならない言葉が続く。
「ミ、ミウ……これはいったい……?」
「あ、たぶん彼らは本当に魔法使いとか賢者様とか、傲慢な者しか知らないんだと思います。というか、パトリック賢者様の方が珍しいくらい人が良い方なんですよ」
「ちょっとぉ……アタシもそんなにヒトデナシじゃないからね?」
「あ、うん、もちろん!ちゃんとわかってるってば~。もぉ、ラダったらぁ~」
ツンと頭を反らして拗ねた表情をするラダを宥めるようにミウは飛びつき、ねぇねぇと腕に縋りついた。
もちろん本気ではなかったらしいラダもすぐに表情を柔げ、「冗談だよぉ~」と言いながらじゃれ合う女性たちは可愛らしいが、村人たちはとにかく『魔法使い』や『賢者』の機嫌を損ねないようにと頭を下げているらしく、ちっとも私たちの方を見ようとはしない。
おかげでせっかくの心遣いも伝わっておらず、私たちはどうやって彼らにこの改まった態度と姿勢を止めてもらったらいいかと、お互いに顔を見合わせるしかなかった。
ようやく顔を上げてくれた彼らは、私たちが皆揃って地面に座っているのを見て、また頭を下げようとした。
だがそれを阻止すべく私たちは素早く動き、村長夫妻の肩をそれぞれ抱いて立ち上がらせ、ようやく村人みんなに楽な姿勢になってほしいと頼むことに成功したのである。
こうなるのにかかった時間は大したことがないのかもしれないが、私が魔法陣結界に閉じ込めた魔物たちが焼き尽きるのを待つのより疲れてしまった。
とりあえずは捕らえた者たちを村にある家のひとつに閉じ込め、代わるがわる見張りに立ちつつ、ある意味脅威から解放されたことを喜ぶ野外料理が皆に振る舞われる。
「……これはこれで、どうなんでしょうねぇ」
「まあ……今まで恐怖の場所だった森が安全になりましたって言っても、いきなり確かめに行きたくはないんでしょう」
「それはそうですけどねぇ……」
隣に座ったミウに囁きかけると、苦笑を含んだ声が村人の心情を説明してくれた。
私が偽物だとか自称だとか思い込みだとか何故か『賢者』として見る目にあった猜疑は霧消し、代わりに「この方も立派な勇者様のひとり」と村長が直々に村人に紹介してくれたのも、この関係改善に役立ったのかもしれないが、この手のひら返しは何だと思わずにいられない。
「だいたい突然やってきた怪我人が『村の外は危険だ』と言ったから、全員が村に引きこもったっていうぐらいの人たちですよ?たぶんあまり危険な野生動物もこの辺りにいなさそうだし、人を疑うっていうこと自体があまりないんじゃないですか?」
「そうよねぇ……村が農業だけで成り立っていたって、けっこうな畑があるのにこんなに貧しいんだもの。あまり賢く生きてこなかったんじゃないかって思うわよ、アタシでも」
ミウとは反対側に座っているラダもヒョイと身体を前に屈めるようにして、私たちの会話に混ざる。
ちなみにケヴィンは子供たちにせがまれて、今までの自分たちの冒険を話しており、デューンは飲み比べを挑まれている。
私は身体が細いせいもあってあまり健啖家と思われていないのか、ミウやラダと一緒に目の前の皿から調理された肉を食べていた。
チラチラと視線を感じてはいるが、『勇者』と認められたとはいえやはり『魔法を使う者』ということで、私たちには話しかけづらいのかもしれない。
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