すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『魔王(偽)』を討つ。

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今度こそ、すべてが終わったらしい。
ひと回りふた回り大きくなったはずのウルは、また元通りの大きさに戻って満ち足りた顔をして元気よく尻尾を振っている。
その姿はまるっきり可愛らしい犬そのもので、小型ウルフにも、フェンリルにもとうてい見えない。

だが、それでいい。

ウルはウルだ。
私の可愛い従魔だ。


念のため私たちはもうひと晩を同じ場所で野営したが、空気は正常なままで、新たな魔物も魔獣も出てこなかった。
「いったい……あれはなんだったんだ?」
デューンが前日とは逆にラダとミウの寝るテントの前を守り、私と見張りを交代したケヴィンがパキンと枝を折りながら消えそうな焚火に1本ずつくべる。
「……さあ。ま、とりあえず脅威は去ったとみていいのではないかと」
言葉を濁しながら、私は曖昧に微笑んだ。


たとえ睡眠を取っていてもS級や勇者レベルの冒険者ともなれば、魔物の気配などすぐに勘付いて飛び起きるものだろうが、誰ひとり──ウルでさえ目を覚まさなかったその時。
「おお、片付いたな!」
「……やっぱりお前か」
ハァッと溜息をついてから目を上げれば、あの鎧よりも遥かに深い黒が、そこにいた。
「うむ。確かにお前は魔法使いもいい筋だったが、賢者という知識の泉に生まれる者の方が合うようだったな」
「そんなまた適当なことを……」
何やら詩的な言い回し方をされたが、『魔王』の言っていることは確かに間違ってはいない。
「俺は人間の領域は侵さない。犯す愚か者は勝手にすればいい。ヒトに利用されるような知能しかないと侮られるような者は、魔族と名乗れるほどのモノではない」
「……だろうな」
アレはそんなモノじゃない。
魔族になれなかった、なりそこない。
そもそも魔族にも生まれついていない。
だというのにアレは──あの黒い鎧は、言葉を発した。
「アレは人を喰った。元々喰う魔物だが、好き好んで喰うわけじゃない。よほど喰うモノがない時に人を襲うが、集団でもない限りは子供にすら怯えて逃げる。誰だか知らんが、人間の中には『俺』になりたい者がいるらしい」
「………は?」
パチリと火が爆ぜた。

とりあえず偽物とはいえ、『魔王』を斃した。
褒めてやる。
もう少しだけ待ってやる。
俺と遊ぶのに、もう少し強くなれよ。

立ち去る気配も感じさせず、魔王は消えた。


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