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賢者、『魔王(偽)』を討つ。
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《おーいーしーい───》
口を大きくパクパクと開閉するウルがあちらこちらと飛び回り、ご機嫌な感情を私に伝えてくる。
魔獣である小型ウルフの『家族』から疎外され、なるべく魔素毒を含まない動物だけを口にしていたウルだが、いかに神獣と言えどいつまでも魔素を取り込まないでは不調になるはずだ。
おそらくそれを補っていたのがノームたちが分けてくれた露水なのだろうが、残念ながら彼らの村からはずいぶん離れてしまっているし、その間に違うノームの集落も見つけられていない。
きっとウルは大気中に放出される魔素を少量だけ、呼吸などで取り込んでいたはずだ。
それが今や周囲は浄化された大量の魔素が満ちているため、ウルにとって最高の環境だろう。
「……この綺麗な魔素を取り込んで維持できる魔法陣……筒か?ノーム村長のティファムに魔素入りの露の作り方を教えてもらえばよかったか…?それとも……」
つい思考が新しい魔法を構築する方に向かうが、ウルほどではないにしても、魔力が多いミウも心地良さを感じているようでやはり喜んで跳ねている。
──というか。
「……ひょっとして、ミウは酔っぱらっていないかい?」
「え?」
「酔う?」
少し様子がおかしいことに気付いて私がそう呟くと、ケヴィンとデューンが顔を見合わせた。
「そう……かな?楽しそうなだけ、だと思うけど……」
「いや、そういえば確かに……何だか様子が……?」
いつもならばそういったことに真っ先に気が付きそうなラダは、いまだ地面で生き生きとしている植物を観察することに夢中である。
私を含む男性陣は、平素よりテンションが高めの女性2人とウルを見て、困惑するばかりだったが──
「…………一向に人間の村が排除できないと思って来てみれば。いったいこれは何だ?」
ぶわりと黒く禍々しい気配がそれまでの清浄な空気を薙ぎ払うように沸き上がり、見たこともない漆黒の鎧を纏った大きな人影が、ズル…と足を引きずりながら森の奥から現れた。
口を大きくパクパクと開閉するウルがあちらこちらと飛び回り、ご機嫌な感情を私に伝えてくる。
魔獣である小型ウルフの『家族』から疎外され、なるべく魔素毒を含まない動物だけを口にしていたウルだが、いかに神獣と言えどいつまでも魔素を取り込まないでは不調になるはずだ。
おそらくそれを補っていたのがノームたちが分けてくれた露水なのだろうが、残念ながら彼らの村からはずいぶん離れてしまっているし、その間に違うノームの集落も見つけられていない。
きっとウルは大気中に放出される魔素を少量だけ、呼吸などで取り込んでいたはずだ。
それが今や周囲は浄化された大量の魔素が満ちているため、ウルにとって最高の環境だろう。
「……この綺麗な魔素を取り込んで維持できる魔法陣……筒か?ノーム村長のティファムに魔素入りの露の作り方を教えてもらえばよかったか…?それとも……」
つい思考が新しい魔法を構築する方に向かうが、ウルほどではないにしても、魔力が多いミウも心地良さを感じているようでやはり喜んで跳ねている。
──というか。
「……ひょっとして、ミウは酔っぱらっていないかい?」
「え?」
「酔う?」
少し様子がおかしいことに気付いて私がそう呟くと、ケヴィンとデューンが顔を見合わせた。
「そう……かな?楽しそうなだけ、だと思うけど……」
「いや、そういえば確かに……何だか様子が……?」
いつもならばそういったことに真っ先に気が付きそうなラダは、いまだ地面で生き生きとしている植物を観察することに夢中である。
私を含む男性陣は、平素よりテンションが高めの女性2人とウルを見て、困惑するばかりだったが──
「…………一向に人間の村が排除できないと思って来てみれば。いったいこれは何だ?」
ぶわりと黒く禍々しい気配がそれまでの清浄な空気を薙ぎ払うように沸き上がり、見たこともない漆黒の鎧を纏った大きな人影が、ズル…と足を引きずりながら森の奥から現れた。
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