すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『魔王(偽)』を討つ。

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詳しい話はケヴィンたちとともにここに戻ってからの方がいいだろうと、私は王宮の冒険者ギルドでミウの討伐証拠を保護した時と同じように、固定魔法を施して捕らえた者たちが逃げないようにと地面に押さえつける。
今回は布ではなく、村人たちが皆で綯えて作った太縄を使ったが、私がその見事さに感心していると、村人たちはそんなに特別なものでもないと首を傾げた。
聞けばこの土地では繊維質な植物が多く、うまく扱えば様々な『糸』や『縄』、織物用の染色など豊かになれるはずなのに、どうやらそんな思いには至っていないらしい。
「ではこちらはこれでいいだろう……で、ウルがどうしたんだい?」
「あ!そうでした。とりあえず、ウルちゃんが走って行った方向には人型に近い……オークとかゴブリンとかじゃなかったんですが、うぅ~ん……?いや、人に近い感じのオーク?とにかく変なのがいたんです。でもまあちゃんと討伐はできました。でも、ウルがその死骸に噛みつこうとして……」
「えっ?!」
ミウが状況を説明してくれたが、思いがけない一言に驚いて、思わず私は腰を浮かせた。
「あっ!いえっ!大丈夫です!デューンが『目付きがおかしい』って言って、飛びかかろうとする前に抱き止めましたから!で、しばらく藻掻いていたんですけど……急にぐったりしてしまって……デューンが最後までウルちゃんを抱き締めていたんだけど……倒れる前に何かを『しなくてよかった』って呟いたって……」
「そ…そうか……しかし、何をしなくてよかったのか……」
ふぅと安堵の息を吐いたが、討伐が終わったというのに、ケヴィンたちが戻ってこないのはどうしたわけなのか?
「そう!それなんです。デューンがウルちゃんを抱えたまま…う、動けなくなっちゃって……」
「動けない?」
私は首を傾げる。
魔獣──いや、神獣といえるフェンリルと言えどウルはまだ子供であり、私に飛びついてきたこともあるが、動けなくなるほど重かった覚えはない。
「そうなんです。それで、その……何とかウルちゃんを軽くする魔法とかないかって、デューンが。パトリック賢者様はついてこないのを見てたから、私が迎えに行くよって来たんです!」
「なるほど」
事情は分かったため、私はミウの案内でみんなのところへ行くことに決めた。
だがその動きにビクッと反応したのは村人たちである。
「えっ…そ、そんなっ……」
「こ、こいつらはどうしたらっ!!」
悲鳴のような声が様々に上がり、今度はミウの方が目を瞠った。


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