すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『魔王(偽)』を討つ。

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最初に私の防御魔法に弾き飛ばされた者と、女性を人質に取ろうとして衝撃を受け気絶させられた者の計2名は、騙されていたことに怒る村人たちによってあっけなく縛り上げられる。
彼らを目の届く場所に転がしたままで、私は村人たちから「助けてほしい」という事案を詳しく聞くこととした。

「……つまり、彼らがここに来た時には確かに傷を負っていて、それが魔王の仕業…だと」
「え、ええ……正確には『魔王と魔物の集団』と言っていて……た、確かにここ数日前から森の近くで黒い衣を纏った何かに追いかけられる者や、得体のしれない生き物か何かの唸り声が、夜が明けるまで村の周囲で響いたりし、して……」
心労の極みに至ったらしい村長を村人何人かが丁寧に運び、その代わりに彼の息子が、青褪めた顔で少し震えながら話してくれる。
さっき飛び出していった冒険者たちが本物の『勇者』だと知り、すっかり慄いてしまったのだ──いったい『勇者』というものをどんな存在と捉えているのだろうか。
「そっ…そのっ……け、賢者様っ!」
「はい?」
私がいささか考え事をしながら話を聞いていると、突然村長の息子が目の前に跪き、まるで祈りを捧げるかのように両手を組んで懇願し始めた。
「あっ…あのっ!おっ、お願いです!ど、どうぞゆ、ゆ、勇者様にはっ…な、なにとぞっ!わっ…我々っ…むむむ、村の者たちはけっして、けっして、そっ、だ、騙したりっ…き、危害を加えようとか…そ、そんなことはないっと…どう、どうかっ!おおおお口添え、をっ……」
「は?」
もう見間違えようもなくガタガタと酷く震え、どもりながら涙目で土下座を繰り返す彼を、私は思わずポカンと見下ろした。

一体何を言って──

「おっ、お願いしますっ!」
「ほっ、ほんとにっ!わ、私たちは何もっ……」
「な、何でも差し上げますからっ!」
「お、お願いです……こ、子供たちの命だけは助けてっ……」
叫んだり泣いたりしながら、私よりも年上にしか見えない者たちも揃って次々と床に座り込んで頭を下げるのを見て、私は呆然とするしかない。
というか、むしろこの姿を仲間たちに見られたら──
「パトリック賢者様っ!ウルが倒れたのっ!診てください!!」
そんな声とともにものすごい勢いで駆け戻ってきたのは、ミウだった。


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