すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『目的』を見つける。

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「あっ!ゆっ、勇者様っ!!」
「勇者様っ!ど、どうかここにいてっ!」
「行かないでっ!わ、私たちを守って!」
「お願い!助けて!」
「ダメだ!行かせるな!」
「だっ、誰かっ!あ、アイツを止めろ!!」
悲痛な叫びが様々に上がる中、おかしな言葉が聞こえた。
どこからだろうと見渡しても、人が押し寄せてきて判別できない。
「大丈夫だ!元凶を倒しに行く!貴殿らはここで守りを固めていてくれ!」
「そ…そんなっ……」
「ま、また見捨てられた……」
「見捨てられた?」
ガクッと膝を折り、何人かの村人が地面に蹲る。
それを慰めるかのように他の村人が肩を抱き、または咽び泣く身体に抱きつき、自分たちの不遇を互いに慰め合う異様な光景が、私たちの目の前に広がった。

とりあえず私はウルとの従魔契約のおかげであの子がどこにいるかはわかるし、ウルを追えばパーティーメンバーとも合流できることはわかっているので、とりあえず目の前で項垂れる村人たちに話を聞くことにした。
だいたいおかしいのだ──単に『勇者が来た』という噂はあっという間に広まってしまったが、それが本物の勇者かどうかなど、どうしてわかるだろう。
単に私だけがこの村を訪れたことがないのならば筋は通るが、ケヴィンだけでなく、他の誰もここに訪れたことも、誰か知りあいがいるわけでもないらしい。
それでは一体誰が、ケヴィンたちを『勇者』だと見抜いたのか──
「みなさん、落着いてください!彼らは逃げ出したのではなく、私の従魔が怪しい気配を感じ取って追いかけたので、その原因を探りに行ったのです」
「ほ…本当に……?」
「ええ、本当です。ですから、彼らが戻ってくるのを待って……」
「でたらめだ!」
地面に座り込んでいるお年寄りに手を差し伸べ、彼らの行動を説明しようとした瞬間に、彼らの後ろの方から否定する声が上がった。
「………なんですか?」
「ヒッ………」
私はそんなに威厳があるとは言いにくい、どちらかというと優しい風貌をしているらしい。
性格的にも激昂するということはあまりないが、その声音に含まれる故意に煽ろうとする気配を感じ取り、思わず低い声が出た。
とはいえそんなに気力を放出していないはずなのだが、声のした方にやや力の籠った眼差しを向けると、追従しようと手を振り上げようとしていた集団がズリッ…と土を削るような音を立てて少し後退るのを確認する。
彼らはここにいる村人と同じような服装をしているのだが、何となく違和感を感じて、私の手に縋りついてきたご老人に正体を尋ねた。
「彼らは、この村の者ですか?」
「え……あ、いや……数日前に『魔王たちに襲われた』と大怪我を負って森から彷徨い出たところを、若いモンが助けたんじゃ……ハテ?どこの出身のものかのぅ………?」
キョトンとして後ろを振り返った老人の声が聞こえたのかどうかわからないが、その『大怪我を負った若者たち』はさっきとは逆に、ジリジリと私の方へ近づこうとしていた。


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