すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『目的』を見つける。

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よもや私たちが見つけねばならないのは『偽物の魔王』なのだろうか──だが現実問題として、人間と対立しているのはどうやらその『偽物』の方なのだ。
だというのに『真物の魔王あいつ』は『偽物の魔王』の存在を明かしはしても、どこにいるかまでは教えてくれなかったのである。
「……当たり前か」
私たちが行うのはあいつにとっては『同族殺し』なのだ。
わざわざかたきとなる者に肩入れする理由などない。
「どうしました?」
いまだ思考の波に囚われていると、ミウがひょいと私の顔を覗き込んできた。
「え?」
「はい!朝ご飯です。今日は私とラダが作りました!」
「作ったって……ミウは鍋をかき混ぜてただけでしょ。スープ零しそうになってたし」
「えへへ~」
生粋のお嬢様であるミウは、たとえ家族から疎まれていようとも『伯爵令嬢』としての嗜みから生活習慣までしっかりと貴族として叩き込まれており、冒険者となった今でも料理に関しては食べる方に比重があるということだ。
「だって!聞いて!この子ったら果物ナイフを『ちっちゃい剣みたい!』とか言ってビュンビュン振り回して手からすっぽ抜かして、はぐれフオルンの幹に柄までめり込ませたのよ?!」
「うわぁ~………」
ミウが意図せずナイフを突き立てたのは植物魔物の中でも質がいいとはいえないモノで、しかもその時討伐依頼を受けていた狂暴化した個体そのものだったらしい。
そこからは食事の用意そっちのけで慌てて戦闘に入ったとラダは興奮して話してくれた。
「おかげで野営しながら探すはずが短期決戦で終わったものの……スープにするはずだった煮えた野菜は鍋ごとひっくり返り、調理のために取り出したばかりの肉は土まみれになるし、携帯堅パンはミウの握力で粉々になってたし!」
それはその夜だけでなく深夜に見張りを交代する時、そして朝食となるはずだった食材で、けっして微々たるものとは言えない。
「そうそう。それで改めてミウの調理経験とか聞いたんだよね?」
「ああ……そうしたら『家から出る時はお弁当を持ってきて、どこかの町に行ったら食事をして、なんかついでにお弁当をもらいます!』って言ってたな。『ついで』で食堂や宿屋が弁当なんか作ってくれないんだが……」
ケヴィンとデューンも参加して、ミウの世間知らずっぷりを披露してくれる。
「しかもこの子、それをお金で解決してるのかと思ったらそうでもなくて。いつの間にか食堂の女将さんと仲良くなっちゃったりして、便宜を図ってもらってたりするのよね」
「ふっふっふ~。お料理はできませんが!美味しい物をもらえる確率は高いです!」
ラダが呆れながらも可愛い妹を見る目でミウを見れば、当の本人は嬉しそうに胸を張った。


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