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賢者、『目的』を見つける。
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精霊はともかく、生と死が分かっている人間、動植物、魔獣に魔物──これらは長短の違いがあれど『寿命』がある。
だが魔族はどうだ──考えてみれば私はどの人生でも、『魔族の死体』というものを見たことが無いことに気がついた。
私が、勇者が、そして彼らを欲した王が『斃すべきモノ』と認識しているのに、彼らが斃れたという証拠は──
「お前は何を考えているのか、案外わかりやすい……なるほど、そのような顔をすることを『考えがすぐわかる』というのか。ふむ。『人間』とは何年見ていても常に違う者が現れる!楽しいものだ!」
「……そうか。そんな観察感想を私に聞かせるためだけに、今ここに現れたのか?」
「まさか」
ニヤッと笑うその顔は、どう見ても『人間』にしか見えない。
これが『ヒト』と異なる姿かたちをしていてくれれば、私もこのモノに親近感ではなく、『普通』の人間と同じように恐怖や憎悪を持てたのかもしれないが──
しかし魔王は本当に私の表情から『考えていたこと』を読み取ったのだろうか?
「人間は短命だからな!特にお前は短すぎる。そんなお前が俺の在位に驚くことなぞ、わかりきっていたわ!」
「違う!!いや、確かに驚いたけどもっ!!」
魔王曰く、魔族の遺体──抜け殻といった方がいいのかもしれないが、それらが『機能停止状態』となると、まず機動力である魔石だけを残し、すべて塵となるらしい。
「塵に……では、その後はどうなるのだ?」
「変なことを知りたがるんだな。動かなくなったモノなど、必要がなかろう?消えれば単なる魔素だ。魔石は魔素が凝り固まった物だから、アレらも放置すれば自然に帰るが……まあ、喰らえば己の身体に魔力が回るから、だいたいは増え過ぎた魔族が分裂した個体を吸収するために………ん?」
「つまり、魔族は同族殺しというか『自分殺し』を行って強くなる……?」
「ああ、弱い奴はそうだな。魔国は魔素に満ちている。その魔素を体内に抱えきれない奴は分裂し、その中で勝ち残ったのが『本体』となり、強い個体だけが生き残れるんだ」
ずいぶんと生きていくのに過酷なような──だが、それならば『本体ばかり』が残るのが魔族の国なのか?
いや、そもそもその『魔族の国』とやらは何なのだ?
「……今さら聞くのか。お前たち人間は、どうも我が魔国を『宝の山』のように思っているらしいな?少なくともこの国と隣接しているわけではない。どこから聞きつけてくるのか、魔国の端っこにまで命がけで辿り着き、魔族を生け捕りにしようとか、デカい魔石が欲しいからと無駄に挑んで命を散らしていく。俺の方こそ聞きたい…魔石ならば人間の世界の魔素を取り込んでいる魔獣の死体から取り出せるのに、なぜわざわざ敵わぬ魔族に挑んでくるんだ?」
「え?」
「言っただろう?魔族は分裂した己の魔石を取り込み、さらに強くなったり大きくなる。人間はそのようなことはない。永い間見てきた俺は知っている。分裂はしないが、やはり同族殺しをするのに、残った物を喰らって強くもならん。弱いままなのに、なぜ挑む?」
「……私は、口に出していたのか?」
「うむ。お前は顔で表現するだけでなく、声も出していた。面白いな、お前は思っていたことを話すんだな……では、さっき『違う』と言ったのは、本当に違うのだな?ふむ…俺の『観察力』?とか言うのもまだまだだな」
私はその指摘に思わず瞬きをし、魔王からの問いに答え返すよりも先に、自分の頭に浮かんだ疑問をそのまま零してしまった。
だがそんなふうに突然会話を切ってしまったのにも気を悪くした様子もなく、魔王は私が何度生を繰り返してきても知れなかった魔族のことをあっさりと明かしてくるため、愚鈍な私には理解が追いつかない。
だが魔族はどうだ──考えてみれば私はどの人生でも、『魔族の死体』というものを見たことが無いことに気がついた。
私が、勇者が、そして彼らを欲した王が『斃すべきモノ』と認識しているのに、彼らが斃れたという証拠は──
「お前は何を考えているのか、案外わかりやすい……なるほど、そのような顔をすることを『考えがすぐわかる』というのか。ふむ。『人間』とは何年見ていても常に違う者が現れる!楽しいものだ!」
「……そうか。そんな観察感想を私に聞かせるためだけに、今ここに現れたのか?」
「まさか」
ニヤッと笑うその顔は、どう見ても『人間』にしか見えない。
これが『ヒト』と異なる姿かたちをしていてくれれば、私もこのモノに親近感ではなく、『普通』の人間と同じように恐怖や憎悪を持てたのかもしれないが──
しかし魔王は本当に私の表情から『考えていたこと』を読み取ったのだろうか?
「人間は短命だからな!特にお前は短すぎる。そんなお前が俺の在位に驚くことなぞ、わかりきっていたわ!」
「違う!!いや、確かに驚いたけどもっ!!」
魔王曰く、魔族の遺体──抜け殻といった方がいいのかもしれないが、それらが『機能停止状態』となると、まず機動力である魔石だけを残し、すべて塵となるらしい。
「塵に……では、その後はどうなるのだ?」
「変なことを知りたがるんだな。動かなくなったモノなど、必要がなかろう?消えれば単なる魔素だ。魔石は魔素が凝り固まった物だから、アレらも放置すれば自然に帰るが……まあ、喰らえば己の身体に魔力が回るから、だいたいは増え過ぎた魔族が分裂した個体を吸収するために………ん?」
「つまり、魔族は同族殺しというか『自分殺し』を行って強くなる……?」
「ああ、弱い奴はそうだな。魔国は魔素に満ちている。その魔素を体内に抱えきれない奴は分裂し、その中で勝ち残ったのが『本体』となり、強い個体だけが生き残れるんだ」
ずいぶんと生きていくのに過酷なような──だが、それならば『本体ばかり』が残るのが魔族の国なのか?
いや、そもそもその『魔族の国』とやらは何なのだ?
「……今さら聞くのか。お前たち人間は、どうも我が魔国を『宝の山』のように思っているらしいな?少なくともこの国と隣接しているわけではない。どこから聞きつけてくるのか、魔国の端っこにまで命がけで辿り着き、魔族を生け捕りにしようとか、デカい魔石が欲しいからと無駄に挑んで命を散らしていく。俺の方こそ聞きたい…魔石ならば人間の世界の魔素を取り込んでいる魔獣の死体から取り出せるのに、なぜわざわざ敵わぬ魔族に挑んでくるんだ?」
「え?」
「言っただろう?魔族は分裂した己の魔石を取り込み、さらに強くなったり大きくなる。人間はそのようなことはない。永い間見てきた俺は知っている。分裂はしないが、やはり同族殺しをするのに、残った物を喰らって強くもならん。弱いままなのに、なぜ挑む?」
「……私は、口に出していたのか?」
「うむ。お前は顔で表現するだけでなく、声も出していた。面白いな、お前は思っていたことを話すんだな……では、さっき『違う』と言ったのは、本当に違うのだな?ふむ…俺の『観察力』?とか言うのもまだまだだな」
私はその指摘に思わず瞬きをし、魔王からの問いに答え返すよりも先に、自分の頭に浮かんだ疑問をそのまま零してしまった。
だがそんなふうに突然会話を切ってしまったのにも気を悪くした様子もなく、魔王は私が何度生を繰り返してきても知れなかった魔族のことをあっさりと明かしてくるため、愚鈍な私には理解が追いつかない。
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