すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『目的』を見つける。

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拳を顎に当てながら首を傾げる様はまったくもって『人間』と変わらない姿だ。
そこにいるだけで溢れ出してくる禍々しい気配を隠蔽してしまえば、人の世界にはないぐらいの深い黒い軍曹の上級将校としか見えなかったかもしれない。
もしくは人外の美貌をもつゆえ、どこかの王族とでも間違われそうな──

スゥッと意識を持っていかれそうになり、私はハッとして気持ちを持ち直すように頭を振った。
そんな私の様子を見て、魔物除けの香木を混ぜてある焚火の向こうから、魔王がふっと笑う。
「……意外だな。すでに精霊王や人間の王に『大賢者』と称される者が、俺の『魅了』を退け得ぬか」
「言ってろ。私にはまだその称号にはふさわしくないということだろう」
「謙遜な」
「……『人間』の言葉を容易たやすく扱うな」
ククッと小さな声を漏らし、魔王は華やかな笑みを浮かべる。

喜怒哀楽──魔族にも、そんなものがあるのだろうか?

「まったくもって、『ヒトの言葉』というものは便利だ。生きてさえいれば、意思疎通認識できる記号としての言葉を使い、身振りというのか?手を振ったり、顔を歪めてそれに『意味』を持たせて互いを理解し、誤解する」
「理解はわかるが……誤解って何だ」
「我らは皆言葉なぞ持たぬ。俺がこうして『話す』という手段を得るまでな。それまではとても単純だった。互いの念をぶつけ合い、降伏するか、叩きのめすかで良かったのだから」
述懐するようなその言葉に、さらに『懐かしい』としか言いようのない表情を顔に浮かべる魔王を、私はただ見つめるしかない。
「だが俺が喉や声というものを使い、言葉を発するようになった。念と同じ言葉を出せば、次第に使える者が増えた。そして念を隠して少し違うことを言ってみた。そうしたら、俺が意図したことと発言したことの意味を取り違えて解釈する奴が出始めた!」
「それがどうした?」
何やら楽しそうに語るが、意味を取り違えて解釈されてしまっては、本来の目的は達せまい。
そこの何が楽しいのか、私にはさっぱり分からなかった。
だからその疑問をそのままに発すると、ニヤリと嫌な感じの笑いが返ってきた。
「わからんか?俺は俺の気持ちを隠蔽する。自分の考えていることを明かさずにいられる。おまけにお前たち『人間』と通じる」
「だから……?」
「『魔王』というのは、魔族の中の王だ」
そうだろう。
魔族の中の誰よりも強い──だから『王』なのだ。
だからどうしたというのが、私の正直な感想である。
「誰よりも強く、そして誰よりも魔族を騙し、頂点に君臨する……それが俺だ。俺は人間で言うところの『数千年』、魔王であり続けている」
思わず私はギョッとした。
それは炎の向かい側にいるモノが『魔王』という地位に達したということに驚いているのではない。
人間でいうところの『在位期間』のあまりの果てしなさに、私は愕然としたのである。


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