すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
135 / 248
賢者、『目的』を見つける。

2

しおりを挟む
だがどんなに楽しい時でも『終わり』はいずれ来る──

いや、魔物討伐やダンジョン攻略などを『楽しい』というのは違うのかもしれないが、少なくとも『私』にとっては裏切られもせず、騙されもせず、バカにもされず、ましてや殺されることのない『冒険者』としての日常は今までにない充足感を持って過ごせる日々だった。
背中を向けても切りつけられることも蹴られることもなく、荷物を押し付けられることもなく、作った食事を投げつけられることもない。
「……ああ、幸せだなぁ………」
「えっ?」
思わずポツリと零した私の声に、ラダがピクリと反応した。
「え~?どうしたんですかぁ?パトリック賢者様っ!」
「何かあったのか?」
「えっ?!何っ?辛いことがあったんなら、俺が聞くよ?」
いや、私はこうやって誰かが温かい食事を──ちなみに今日のはラダが故郷の料理を作ってくれると当番を買ってくれたのだが──用意してくれ、しかもそれに毒キノコを混ぜるような真似もせずに、ただただ安全に美味しい物を皆で分け合って食べたり喋ったり、仲間外れにされない喜びに浸っていただけだと説明しただけなのだが。
「ウッ…グッ……グゥゥッ……ぼ、僕たちのっ!仲間をっ!」
「……今そいつらはどこにいるんだ?パトリックよ……心当たりがあるのならば、俺が冒険者にふさわしい礼儀と、仲間に取るべき態度というものを教えてやろうではないか……」
「あっ!そんならアタシが激辛スープ作って、そいつらに差し入れてやるわ!村でひと粒口に入れただけで死にそうに悶絶するっていう豆をもらったのよ!試してみていい?」
「何言ってんですか!そんな奴ら、私の弓で全員遠くまで吹っ飛ばしてやりますよっ!!でっ?どこにいるんですかっ?!」
ケヴィンはなぜか悔し泣きをし、デューンは薪などを作る時によく使う小斧をパンパンと手のひらに打ち付け、ラダは何やらザラザラと音のする小袋を自分の荷物から取り出す。
そしてキュンッと弦の貼り具合を確かめながらミウがフンッと可愛らしく鼻を膨らますのを見て、思わず私は微笑んでしまった。
「ふっ…ふふっ……ハハハっ……うん、ありがとう……ありがとう……」
「礼はいいからっ!大切な仲間を酷い目に合わせた連中を野放しになんかできないっ!きっとそいつらは、別の仲間にも同じように酷いことをするんだから!」
「うん……ケヴィン、怒ってくれてありがとう。でもいいんだ」
「でもっ!」
「いいんだよ。もうそいつら、死んじゃってるから」

私の言ったことは、大袈裟でも、誤魔化しでもない。
だいたいは私が殺された後か、死ぬ寸前の朦朧としている時だろうが、一応は『仲間』だったやつらは目の前に出現した『魔王』に精神の恐慌をきたし、勝算もないのに飛びかかったり、私やその他の弱い仲間を囮にして自分だけ逃げようとしたりしたが、悉くその『魔王』に討ち斃されてしまった。
見た覚えもあるし、『魔王』と再会した時にわざわざ教えてくれたこともある。
何故そうしたのかわからないが、私の仇を取ったつもりでいるような話し方をされたこともある──たぶん、気のせいだが。

だがそれをそのまま言うことはなく、私はただ最後の事実だけを伝え、今さら報復を考えなくていいと話した。
それにもしやつらが『魔王』から逃れられたとしても、数十年以上前の話である。
最初の時のことをよく考えて思い出せたとしたら、きっと数百年は経っているはずで──それこそ魔族か何かでなければ、そんな長寿を保ってはいられないだろう。
もし万が一魔族だったとしたら、それこそ『魔王』は頂点の座をかけて死闘を繰り広げたはずである。
しかし私自身が何度も転生していることと同様、『魔王』を知っているということも話すことはなく、私はただ仲間のその心が嬉しいと言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...