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賢者、『目的』を見つける。
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だがどんなに楽しい時でも『終わり』はいずれ来る──
いや、魔物討伐やダンジョン攻略などを『楽しい』というのは違うのかもしれないが、少なくとも『私』にとっては裏切られもせず、騙されもせず、バカにもされず、ましてや殺されることのない『冒険者』としての日常は今までにない充足感を持って過ごせる日々だった。
背中を向けても切りつけられることも蹴られることもなく、荷物を押し付けられることもなく、作った食事を投げつけられることもない。
「……ああ、幸せだなぁ………」
「えっ?」
思わずポツリと零した私の声に、ラダがピクリと反応した。
「え~?どうしたんですかぁ?パトリック賢者様っ!」
「何かあったのか?」
「えっ?!何っ?辛いことがあったんなら、俺が聞くよ?」
いや、私はこうやって誰かが温かい食事を──ちなみに今日のはラダが故郷の料理を作ってくれると当番を買ってくれたのだが──用意してくれ、しかもそれに毒キノコを混ぜるような真似もせずに、ただただ安全に美味しい物を皆で分け合って食べたり喋ったり、仲間外れにされない喜びに浸っていただけだと説明しただけなのだが。
「ウッ…グッ……グゥゥッ……ぼ、僕たちのっ!仲間をっ!」
「……今そいつらはどこにいるんだ?パトリックよ……心当たりがあるのならば、俺が冒険者にふさわしい礼儀と、仲間に取るべき態度というものを教えてやろうではないか……」
「あっ!そんならアタシが激辛スープ作って、そいつらに差し入れてやるわ!村でひと粒口に入れただけで死にそうに悶絶するっていう豆をもらったのよ!試してみていい?」
「何言ってんですか!そんな奴ら、私の弓で全員遠くまで吹っ飛ばしてやりますよっ!!でっ?どこにいるんですかっ?!」
ケヴィンはなぜか悔し泣きをし、デューンは薪などを作る時によく使う小斧をパンパンと手のひらに打ち付け、ラダは何やらザラザラと音のする小袋を自分の荷物から取り出す。
そしてキュンッと弦の貼り具合を確かめながらミウがフンッと可愛らしく鼻を膨らますのを見て、思わず私は微笑んでしまった。
「ふっ…ふふっ……ハハハっ……うん、ありがとう……ありがとう……」
「礼はいいからっ!大切な仲間を酷い目に合わせた連中を野放しになんかできないっ!きっとそいつらは、別の仲間にも同じように酷いことをするんだから!」
「うん……ケヴィン、怒ってくれてありがとう。でもいいんだ」
「でもっ!」
「いいんだよ。もうそいつら、死んじゃってるから」
私の言ったことは、大袈裟でも、誤魔化しでもない。
だいたいは私が殺された後か、死ぬ寸前の朦朧としている時だろうが、一応は『仲間』だったやつらは目の前に出現した『魔王』に精神の恐慌をきたし、勝算もないのに飛びかかったり、私やその他の弱い仲間を囮にして自分だけ逃げようとしたりしたが、悉くその『魔王』に討ち斃されてしまった。
見た覚えもあるし、『魔王』と再会した時にわざわざ教えてくれたこともある。
何故そうしたのかわからないが、私の仇を取ったつもりでいるような話し方をされたこともある──たぶん、気のせいだが。
だがそれをそのまま言うことはなく、私はただ最後の事実だけを伝え、今さら報復を考えなくていいと話した。
それにもしやつらが『魔王』から逃れられたとしても、数十年以上前の話である。
最初の時のことをよく考えて思い出せたとしたら、きっと数百年は経っているはずで──それこそ魔族か何かでなければ、そんな長寿を保ってはいられないだろう。
もし万が一魔族だったとしたら、それこそ『魔王』は頂点の座をかけて死闘を繰り広げたはずである。
しかし私自身が何度も転生していることと同様、『魔王』を知っているということも話すことはなく、私はただ仲間のその心が嬉しいと言った。
いや、魔物討伐やダンジョン攻略などを『楽しい』というのは違うのかもしれないが、少なくとも『私』にとっては裏切られもせず、騙されもせず、バカにもされず、ましてや殺されることのない『冒険者』としての日常は今までにない充足感を持って過ごせる日々だった。
背中を向けても切りつけられることも蹴られることもなく、荷物を押し付けられることもなく、作った食事を投げつけられることもない。
「……ああ、幸せだなぁ………」
「えっ?」
思わずポツリと零した私の声に、ラダがピクリと反応した。
「え~?どうしたんですかぁ?パトリック賢者様っ!」
「何かあったのか?」
「えっ?!何っ?辛いことがあったんなら、俺が聞くよ?」
いや、私はこうやって誰かが温かい食事を──ちなみに今日のはラダが故郷の料理を作ってくれると当番を買ってくれたのだが──用意してくれ、しかもそれに毒キノコを混ぜるような真似もせずに、ただただ安全に美味しい物を皆で分け合って食べたり喋ったり、仲間外れにされない喜びに浸っていただけだと説明しただけなのだが。
「ウッ…グッ……グゥゥッ……ぼ、僕たちのっ!仲間をっ!」
「……今そいつらはどこにいるんだ?パトリックよ……心当たりがあるのならば、俺が冒険者にふさわしい礼儀と、仲間に取るべき態度というものを教えてやろうではないか……」
「あっ!そんならアタシが激辛スープ作って、そいつらに差し入れてやるわ!村でひと粒口に入れただけで死にそうに悶絶するっていう豆をもらったのよ!試してみていい?」
「何言ってんですか!そんな奴ら、私の弓で全員遠くまで吹っ飛ばしてやりますよっ!!でっ?どこにいるんですかっ?!」
ケヴィンはなぜか悔し泣きをし、デューンは薪などを作る時によく使う小斧をパンパンと手のひらに打ち付け、ラダは何やらザラザラと音のする小袋を自分の荷物から取り出す。
そしてキュンッと弦の貼り具合を確かめながらミウがフンッと可愛らしく鼻を膨らますのを見て、思わず私は微笑んでしまった。
「ふっ…ふふっ……ハハハっ……うん、ありがとう……ありがとう……」
「礼はいいからっ!大切な仲間を酷い目に合わせた連中を野放しになんかできないっ!きっとそいつらは、別の仲間にも同じように酷いことをするんだから!」
「うん……ケヴィン、怒ってくれてありがとう。でもいいんだ」
「でもっ!」
「いいんだよ。もうそいつら、死んじゃってるから」
私の言ったことは、大袈裟でも、誤魔化しでもない。
だいたいは私が殺された後か、死ぬ寸前の朦朧としている時だろうが、一応は『仲間』だったやつらは目の前に出現した『魔王』に精神の恐慌をきたし、勝算もないのに飛びかかったり、私やその他の弱い仲間を囮にして自分だけ逃げようとしたりしたが、悉くその『魔王』に討ち斃されてしまった。
見た覚えもあるし、『魔王』と再会した時にわざわざ教えてくれたこともある。
何故そうしたのかわからないが、私の仇を取ったつもりでいるような話し方をされたこともある──たぶん、気のせいだが。
だがそれをそのまま言うことはなく、私はただ最後の事実だけを伝え、今さら報復を考えなくていいと話した。
それにもしやつらが『魔王』から逃れられたとしても、数十年以上前の話である。
最初の時のことをよく考えて思い出せたとしたら、きっと数百年は経っているはずで──それこそ魔族か何かでなければ、そんな長寿を保ってはいられないだろう。
もし万が一魔族だったとしたら、それこそ『魔王』は頂点の座をかけて死闘を繰り広げたはずである。
しかし私自身が何度も転生していることと同様、『魔王』を知っているということも話すことはなく、私はただ仲間のその心が嬉しいと言った。
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