すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、精霊王に会う。

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しかし何というか──『勇者』と言われる者たちはもっと荒々しく、魔物や魔獣と見れば見境なく退治してしまうかと思っていたのだが、私のその考え方こそ思い込みだと知らされるような穏やかな旅は続いた。
「う~ん……確かに、『ヒト』に敵意を持って襲ってくるのがいれば討たなきゃって思うんだけど……」
「ケヴィンは昔っからそうよね。アタシの村では魔獣は脅威だったけど、何故かコイツは害意のない魔獣を手懐けちゃう……そのせいか、山中腹の村は魔獣の被害がずっと少なくてさ」
「そうそう!知らなかったんだよ!だいたい僕の村では羽竜ワイバーンを飼い慣らす郵便配達の人がいてさ。その人がいなかったら、見守り小屋や麓の村に手紙を出したり物資を運んだりするのが難しいから、てっきりラダたちもそうやって使役してるんだと思っていたんだよね。だから魔力中毒で正気を失った魔獣は危険だから退治しないと…ぐらいの感覚だったんだよね」
「ああ……何というか……普通の剣士とは意識が違う?のかな?」
「……かもしれない。俺もケヴィンたちと会う前に別の冒険者たちと組んでいたこともあるが……何というか……『優しい』というとおかしいかもしれないが」
ラダがケヴィンを変わり者だと言えば、デューンも同意すると頷く。
魔獣への接し方というか捉え方が従魔使いに似ているが、だからといって彼が魔獣を従えるわけではない。
そのことは十分理解しているらしく、だからこそミルベルと恋仲になれたのかもしれないと、私は理解した。
「だからといって命乞いをしてくる魔獣を見逃すかって言うと………」
「ねぇ?」
なぜか遠い目をしてミウやラダがふっと笑う。
なるほど。『退治』という部分においては心優しい者とは言え、さすがに『勇者』らしい働きをするということらしい。
だが今はコロコロと転がってきては纏わりついてくるノームの子たちを可愛がり、登り棒にされているケヴィンは、どう見ても血なまぐさい生業を背負っている青年とは見えないのだ。


こうして思いがけない日数をノームの村で過ごした私たちは、ようやく守護の腕輪を授けられたことで旅立ちを許された。
いや、別にノームのロダムス村村長であるティファムや精霊王の許しを得る必要はなかったのかもしれないが、ここはヒトの地ではなく、精霊の守りごとを守らねば、私たちはこの森から出ることは叶わないかもしれず、それを破ってまで身勝手に動こうという主張する者はいなかったのである。
「……ひょっとして、我らだけでなく、シュンゲルにも祝福が降りたのか……?」
デューンが愛馬のたてがみを撫でながら首を傾げる。
何と言っていいか──成馬がさらに大きくなるとは思えないが、確かにシュンゲルの存在感は森に入るよりも増しており、そのせいか体躯もひと回り大きくなった錯覚を覚えた。
「ふむ……人の戦士、良い目をしておる。愛するモノを良く見る目だ。だが、愛するモノの心は聞こえぬか……耳も良くしておこうかの」
「えっ……いっ、いやっ…そ、それは……何というか……遠慮させていただきたい」
「何故じゃ?」
「何故……というか。それは、俺の領分ではないと思うのだ」
考え考え、だがキッパリとデューンは精霊王の提案を退ける。
「俺は仲間が傷つかぬよう、目の前の敵を排除する。時には魔物ではなく、この森に住まうような獣かもしれん。シュンゲルの心の声だけでなく、もしそういった獣の心までわかってしまったら、我が仲間を守る手に躊躇いが生じるかもしれん。生きる世界が違うモノと分かり合える者とそうではない者がいるとするならば、俺は『そうではない者』でいいのだ」
「ふむ………」
わかったと頷きつつ、精霊王はやはり納得いかないというような顔をしている。
そしてそのままの目付きでぐるりと私たちを見回したが、誰も彼もデューンと同じでその『恩恵』を遠慮する顔つきをした。
それはそうだ──私はともかく、『勇者』は『魔物』を退治する。
そこによけいな情が入り込む余地はない。
悪人もそうだが、魔獣や魔物がその場限りの命乞いを狡猾に行い、それを聞き入れて見逃すというのは禍根を残すということに他ならないのだ。
だからこそ『良く見える目』があるのはありがたいが、感情に直に訴えかける聴覚や相互理解力は必要ない。


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