すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、精霊王に会う。

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勇者レベルの冒険者ともなると勘がいいのか、ケヴィンもラダもデューンもそれぞれ間違うことなく自分と繋がる運命にあったノームと縁を繋げた。
それを見て満足そうに村長であるティファムが頷き、次いでカヤシュその他のノームたちも頷く。
「精霊王が来る!ロダムスの友、我らの友たちよ、今宵は我が村に身を寄せるがよい!」
「えっ?!」
「いやっ、そのっ……」
まさか来た早々に泊まり込みの宣言がされるとは思っておらず、ケヴィンやラダが戸惑いの声を上げた。
ミウはといえばキッチャムたち女ノームたちに囲まれてニコニコしているし、デューンは無口なノームと何か通じたのか無言で差し出されたヒョウタンから出てくる酒を携帯用器で受け止めて、勝手に酒盛りを始めてしまっている。
「いやあのその。に、荷物が……馬車が……」
「ああ、大丈夫ですよ?たとえあの魔法陣の中に入ったとしても、荷馬車自体にも結界を張ったので中の物は持ち出せませんし、そもそもあの魔法陣自体が索敵を惑わして、近付くことができない呪文が使われていますから……」
「そ、そうなの…か……?」
ゴクリと喉を鳴らし、ケヴィンが少しずつ笑顔になっていく。
そんなにも荷馬車や荷物が大切なのかと思ったが、一点を見つめて動かなくなった視線をたどれば、いつの間にかデューンを囲んだノームたちが酒だけでなく何か食べ物を運んできていた。
「……えぇと……なんか、美味そうな匂いが……」
「そ、そういえば……そう、ね……?」
精霊族のノームたちが食べる物といえば、何となく草や木の実など植物性の物ばかりと思っていたらしいケヴィンとラダがクンクンと空気を嗅ぎだす。
つられて私も匂いの元を探したが、それは程なく現れた。
「えっ……?」
「に、肉?精霊の村で?」
確かに野生の野菜や果物も多かったが、丸々と太ったウサギの丸焼きが大きい盆の上に据えられて、四人がかりで運び込まれてくる。
それも一つや二つではなく、数えると二十もの盆が大広場に置かれた。
「今宵は勇者たちを迎えた!ウサギたちも勇者の血肉になりたいと、命を捧げてくれた!感謝せよ!感謝せよ!命を繋げ!大いなる恵みに喜ぼうぞ!!」
村長が大音声で告げると、私たち『白雷の翼』の面々にはひとつずつ、ウルの前には三つ運ばれ、そして残りの盆の前に小さなノームたちが行儀良く座って祝杯を掲げた。


ウサギ一匹では足りなくとも、ノームたちが集めた野菜や果物が腹を満たしてくれ、注いでくれる酒もまた、縁を繋ぐ甘露とはまた違った味わいの美味い飲み物だった。
欲を言えばもう一匹ずつでも私たち人間は食べられたかもしれないが、子供も大人もわちゃわちゃとローストされたウサギから切り出される肉を頬張って腹いっぱいになったとコロンコロンと寝転がるのを見ると、それだけでこちらも満たされる気がする。
「……思っていたのと、何かずいぶん違ったな」
「ええ。ノームが人間にご馳走……そもそも、目の前に現れることだって珍しいっていうのに」
「しかも酒が美味い。飲んだことがない味だが、どうやらこの森で取れる果物で作るらしい」
「えっへへ~♪みんな仲良くなってぇ~うっれしぃなぁ~♪」
さすがに私たち男三人とラダは酒に飲まれることはなかったが、成人して間もなくしかもほとんど酒を飲んだことがないミウは、ものの見事にご機嫌になっていた。
とはいえ飲むというよりも舐めたぐらいらしいが──
「ぱとりっくけんじゃさまぁ~?なんかぁ…このくだものも、おいしぃんでひゅよぅ~……」
そう言ってふらふらと上半身を揺らしながら差し出してくれたのは、山ブドウをノームの酒に漬けた物だった。

「……なるほど。確かに飲んではいないが」
「ああ、食べちゃった…のね……」
酒漬けの果物は酒精を極限にまで吸って、ひょっとしたら山ブドウ自体も熟しきっていて少し発酵しかかっていたのかもしれない。
だがその味は極上で、私たちはノームの魔力がまだ籠っていない水を分けてもらいつつ、それをつまみながら村長やノームたちと語り明かした。


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