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賢者、王都から旅立つ。
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「……さすがに馬車はあんたのマジックバッグには入らないよなぁ……」
デューンがううむ…と唸る。
それはそうでしょう。
いろいろ入るとはいえ、それはこのバッグの入り口と同程度の大きさのものだけ。
『縮小の魔法』などを使えば入れることもできるのだろうが、私自身は『賢者』として古代語を扱えるだけで魔法や魔術に関しては魔力が豊富にあるわけではないので、知識があっても行使はできない。
パーティー内限定の魔力量で順位をつけるならば、ケヴィン、ミウ、ラダ、私、デューンという感じだろうが、ケヴィンとミウは攻撃、ラダは癒しの方が強くて攻撃は少しできる程度でそれぞれ無属性の補助魔法は苦手だと思う。
それでもせめて荷馬車だけでも安全に置いておくことはできる。
「……それは?」
「この馬車の周りに結界を張れば、よほどのことがない限り誰も近付かないし、気付かない。シュンゲルも連れて行きたいから、馬車だけこの野営地の隅に置いておこうと思って」
そう言いながら、私はガリガリと地面に線を描く。
さすがにこれで効果を発揮してくれるわけではないので、血液の代わりに私の髪を溶かして作った液体とインク液と混ぜて作った魔術用インクをその魔法陣のひと隅に垂らす。
瓶の大きさは普通のものだから、荷馬車を囲い込めるほどの大きさの魔法陣にはとても足りないように見えるが、わずかスプーン一杯ほどのインク液はたちまち地面に描いた溝を走り、淡く光った。
「おお……」
デューンだけでなく、勇者パーティーの皆がその光に誘われるように集まり、呆然と魔法陣が完成する様を眺める。
「じゃあ、シュンゲルに馬車を牽かせてここに」
「あ、ああ……」
私がそう示すと、デューンが軽くシュンゲルの首を叩いて促した。
まるでちゃんと意思が通じているかのように、シュンゲルは躊躇うことなく光る魔法陣の中に荷馬車を引き入れると──
「わぁ……」
「えっ?!あの時もひょっとして、こんな状態だったんですか?!」
「あの時?」
「シュンゲル?!シュンゲル!おい!あいつをどこにやったんだ?!」
ラダが呆然と姿の見えなくなった荷馬車を眺め、ミウが慌てて私に問うとケヴィンも何の話かと食いついてきたが、一番慌てたのはデューンだった。
私よりもかなり大きい男が覆いかぶさるように駆け寄ってきたのはけっこう迫力があるが、あまり楽しくはない。
だからさっさと安心させるようにくるりと魔法陣の方へ、その身体を反転させた。
「え……」
デューンがううむ…と唸る。
それはそうでしょう。
いろいろ入るとはいえ、それはこのバッグの入り口と同程度の大きさのものだけ。
『縮小の魔法』などを使えば入れることもできるのだろうが、私自身は『賢者』として古代語を扱えるだけで魔法や魔術に関しては魔力が豊富にあるわけではないので、知識があっても行使はできない。
パーティー内限定の魔力量で順位をつけるならば、ケヴィン、ミウ、ラダ、私、デューンという感じだろうが、ケヴィンとミウは攻撃、ラダは癒しの方が強くて攻撃は少しできる程度でそれぞれ無属性の補助魔法は苦手だと思う。
それでもせめて荷馬車だけでも安全に置いておくことはできる。
「……それは?」
「この馬車の周りに結界を張れば、よほどのことがない限り誰も近付かないし、気付かない。シュンゲルも連れて行きたいから、馬車だけこの野営地の隅に置いておこうと思って」
そう言いながら、私はガリガリと地面に線を描く。
さすがにこれで効果を発揮してくれるわけではないので、血液の代わりに私の髪を溶かして作った液体とインク液と混ぜて作った魔術用インクをその魔法陣のひと隅に垂らす。
瓶の大きさは普通のものだから、荷馬車を囲い込めるほどの大きさの魔法陣にはとても足りないように見えるが、わずかスプーン一杯ほどのインク液はたちまち地面に描いた溝を走り、淡く光った。
「おお……」
デューンだけでなく、勇者パーティーの皆がその光に誘われるように集まり、呆然と魔法陣が完成する様を眺める。
「じゃあ、シュンゲルに馬車を牽かせてここに」
「あ、ああ……」
私がそう示すと、デューンが軽くシュンゲルの首を叩いて促した。
まるでちゃんと意思が通じているかのように、シュンゲルは躊躇うことなく光る魔法陣の中に荷馬車を引き入れると──
「わぁ……」
「えっ?!あの時もひょっとして、こんな状態だったんですか?!」
「あの時?」
「シュンゲル?!シュンゲル!おい!あいつをどこにやったんだ?!」
ラダが呆然と姿の見えなくなった荷馬車を眺め、ミウが慌てて私に問うとケヴィンも何の話かと食いついてきたが、一番慌てたのはデューンだった。
私よりもかなり大きい男が覆いかぶさるように駆け寄ってきたのはけっこう迫力があるが、あまり楽しくはない。
だからさっさと安心させるようにくるりと魔法陣の方へ、その身体を反転させた。
「え……」
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