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賢者、王都から旅立つ。
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王命を受けるためにまた謁見の間に戻るという話も出たが、それよりも私たちは一刻でも早い出立を望んだ。
恋人がこの王都にいるケヴィンにとっては思いがけない早さで旅立たねばならぬことで申し訳ないと思ったが、意外にも他のパーティーメンバーはあっさりとしていた。
「どうせミルベルのところの飛べる従魔の何かがケヴィンの様子を見に来るから、あいつらはそんな離れてるわけじゃないのよ。それにアタシたちが使うのも……ねぇ?」
「ねぇ~」
ラダとミウが顔を合わせて苦笑する。
勇者パーティーといえど、冒険者という職業の者は徒歩が多い。
だが彼らはこの王都の貸し馬車家に馬車預けているというので、それを引き出すのに付き合った。
その馬車は幌を除けてあり大きさはともかく普通の荷馬車に見えたが、曳く馬が普通の大きさではない。
「これ……は、魔獣?」
「ああ、一角獣らしいんだが、どうやら『ツノ無し』と言われる変異種らしい。同種族から追い出されて、ミルベルのところで傷を癒していたのを借り受けた。まだ主がいないということなので、ミルベルが仲立ちして『白雷の翼』そのものと契約を結んでくれたのだ」
デューンはその大きな馬──いや、一角獣をとても可愛がっているらしく、馬車に繋ぐ前に首をゆったりと撫でる。
だが、私は『変異種』という言葉にわずかに反応した。
それはミウも同じだったようで、馬車の具合を確かめていた手を止めて、パッと振り返って私を見る。
「そ……っか……変異種……どこかで聞いたと思っていたんだ……」
「ん?そっか……変異……パトリックの」
「ひょっとしてミルベルに聞いたら、このツノ無し君とウル以外にも変異種や変異体の魔物がいないかどうか、ちょっと確認する必要がありますね」
ミウだけでなくラダも、ミルベルの店に預けてあるウルの姿を思い出したらしい。
あの店には今ケヴィンが先に行き、ほんのわずかな逢瀬の時間を惜しんでいるはずだ。
恋人がこの王都にいるケヴィンにとっては思いがけない早さで旅立たねばならぬことで申し訳ないと思ったが、意外にも他のパーティーメンバーはあっさりとしていた。
「どうせミルベルのところの飛べる従魔の何かがケヴィンの様子を見に来るから、あいつらはそんな離れてるわけじゃないのよ。それにアタシたちが使うのも……ねぇ?」
「ねぇ~」
ラダとミウが顔を合わせて苦笑する。
勇者パーティーといえど、冒険者という職業の者は徒歩が多い。
だが彼らはこの王都の貸し馬車家に馬車預けているというので、それを引き出すのに付き合った。
その馬車は幌を除けてあり大きさはともかく普通の荷馬車に見えたが、曳く馬が普通の大きさではない。
「これ……は、魔獣?」
「ああ、一角獣らしいんだが、どうやら『ツノ無し』と言われる変異種らしい。同種族から追い出されて、ミルベルのところで傷を癒していたのを借り受けた。まだ主がいないということなので、ミルベルが仲立ちして『白雷の翼』そのものと契約を結んでくれたのだ」
デューンはその大きな馬──いや、一角獣をとても可愛がっているらしく、馬車に繋ぐ前に首をゆったりと撫でる。
だが、私は『変異種』という言葉にわずかに反応した。
それはミウも同じだったようで、馬車の具合を確かめていた手を止めて、パッと振り返って私を見る。
「そ……っか……変異種……どこかで聞いたと思っていたんだ……」
「ん?そっか……変異……パトリックの」
「ひょっとしてミルベルに聞いたら、このツノ無し君とウル以外にも変異種や変異体の魔物がいないかどうか、ちょっと確認する必要がありますね」
ミウだけでなくラダも、ミルベルの店に預けてあるウルの姿を思い出したらしい。
あの店には今ケヴィンが先に行き、ほんのわずかな逢瀬の時間を惜しんでいるはずだ。
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