すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都から旅立つ。

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人助けと生活のための討伐──線引きと割り切りが難しい部分でもある。
ミウが実際に魔物を討伐するのを見、今さっきデューンが自分たちはそれ以上だと明言した。
つまり駆け出しFランクの冒険者でも苦労しそうな魔物退治依頼が100件来たとしても、この勇者パーティーの面々ならば、たったひとりで依頼以上の成果を上げてしまうということである。
しかしそれらをまるごと勇者パーティーが引き受けると言い出し、国王が「では冒険者ギルドに依頼されたものをすべてこなせ」と言われてしまったら、それはもう国として依頼したこととなり、例えばその依頼によって討伐部位を収入源にしようと持ち帰りを希望した依頼主は、自分が依頼料を払わない代わりに得るはずだった獲物を失う。
更に勇者パーティーへの王命依頼という形なのに他の冒険者パーティーが達成してしまえば、勇者パーティーからさらに下請け状態になって、冒険者たちが受け取れる報酬はまた何割か引かれてしまい、冒険者ギルドは自分たちが報酬を払わなくていい代わりに討伐部位を買い取りそして売るというシステムが破綻してしまうし、当然冒険者たちは純粋に収入が何割か得られなくなる。
Win-WinどころかLose-Loseとして、王侯貴族以外にとっては何も誰も得をしない。
「……それは、そうだけども……あっ!」
むぅっと子供っぽい拗ねた感じでケヴィンは手の中に残った依頼書を握りしめようとしたが、スルリと私が更なる選別を引き受ける。
「……これと……これと……これも、Bランクのパーティーならば、経験値上げに頑張ってみる価値がありますね。ただ、これが……」
ある1枚の依頼書はケヴィンの手の中にも掲示板にも戻さず、ふたりに見せるのと同時にミウとラダにもこちらへ来るようにと合図をした。
「んん?話はついた?」
「どうしましたっ?」
やってきたミウとラダに同じく依頼書を見せると、ピンときた顔でミウが頷く。
「え?何?どうしたの?何で、ミウとパトリックだけわかってんの?」
ラダがキョロキョロと私とミウを見比べ、さらにデューンにも視線をやった。
だがデューンにも私たちがその依頼書を見て考え込む意味はわからないだろう。
「……はぁ……これは…うん……証明のしようのない証明をせねばならない……しかし……」
「今から兵をやったとして、もし戻ってきていたとしたら……」
「それが問題なのだよ。あの森は精霊の支配下にあるから、私が勝手に古代魔術で小型ウルフの群れが来ないように結界を張ることはできない……戻って来るか来ないかもわからない」
「戻る……?小型ウルフ……?」
その依頼書は、他の町でも見た『森に大発生した小型ウルフの間引き討伐依頼』であったが、それはノームの村のあるあの森である。


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