すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
110 / 248
賢者、王都から旅立つ。

3

しおりを挟む
にこっと人懐こく彼は笑ってくるが、国王たちと同じようにやはり目が笑っていない。
何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか──初対面だし、ついさっき紹介されただけで口すら利いていないのに、一向に心当たりがない。
「……あいつ、まだあんたにご執心なの?」
「もう20回は振りましたよ!いいかげん妹にも絡まれるんで、そっちとくっつけばいいんですよ」
後ろでヒソヒソと女性ふたりが私のローブに隠れながら、うんざりしたように話している。
「あいつは宮廷魔術師の頭だ。ミウの両親が率いる魔術協会に所属していたが、今は違う。むしろミウのことがあったから外れたとも言えるらしい。ミウに近付く男たちに向かって喧嘩を売るのが趣味なんだ」
デューンが小声で教えてくれたが、それはたぶん『趣味』じゃなくて──
「やあ!素敵なローブ……そんな物でも着けてないと、お相手も見つからない……おっと失礼。お仲間にも恵まれないのでは、本当に『賢者』殿ですかね?」
「……パトリック賢者様は別に『お仲間探し』をしていたわけじゃないわ。私が声を掛けたの!失礼なこと言わないで!」
「おお!ミウ!君はやはりいつも通り美しく優しい。こんな取るに足らない……失礼。実力も伴わない『名ばかり賢者』……いやいや、失礼。僕としたことが……ローブを着ているだけの者であれ、やはり勇者パーティーに『賢者』は付き物だからね!ああ僕が『宮廷魔術師長』の肩書をいただいていなければ、何を置いてもはせ参じるのに!」
「あなたがどんな肩書を捨てようと、勇者パーティーに入ってもらうかどうかはリーダーが決めることだし、私はいつでも反対するわ」
「ああ!何て嘆かわしい……実力を見誤るなんて、とんだ認識疎外の術式を組んだものだ……」
「……この場合、私も反論していいものなんですかねぇ?」
少しばかりムカついて、思わずミウに確認を取った。
何を言っているのかとミウはキョトンとしたが、わからないままに頷きを返してくれる。
「え?何?この失礼男に言えることがある?あるの?何を言ってくれるの?!」
何故だかミウではなく、ラダがワクワクとした顔をして私を見上げた。
やはりこの宮廷魔術師は腕だけは確かのようである。
「……『とんだ認識疎外の術式』を組んでいるのはあなたですよね?何せ今私たちが話していることは、国王陛下たちにはまったく違う友好的な会話に聞こえているでしょう。ケヴィンもあちら側にしてるから、私に向かって『失礼なこと』を連発しているのも聞こえていないか、別の意味に聞こえているんですよ。だからああいう顔で『仲良くやってるな~』ってニコニコしている」
「あ~……なるほど」
今まさにケヴィンがニコッといい笑顔で手を振ってくるのを見て、三者三様で目の前に進み出てきた宮廷魔術師長とやらを睨みつけた。
私は最初からわかっていたから、別段どうということもない。
「ちなみに『白雷の翼』パーティーの彼らはすでに私の認識疎外の術から外れています。勇者剣士のケヴィンは最初から私の本当の姿を見ているし、ラダとデューンに関してはミウが最初に紹介してくれましたから、発動しないようにしています。ちなみにあなたにはこの術式は解けませんよ?」
何せこのマントに編み込まれている術式は古代語でローレンスが組み立てたものであるから、現代語魔法しか使えない魔術師には、『何か文様が刻まれている』としか見えないはずだ。
たぶん『認識疎外の術である』というのはほぼ彼のあてずっぽうだろう──魔術師はそういうローブを羽織る者が多いという『常識』からの発言だと思われる。
それはどうでもいいのだが──思わずカチンときた私はそのまま言い返せない若造・・に向かって、古代語で宣言をした。
<貴様の思い上がりがその舌を凍らせる。われがこの地離れるまでは、その呪いは解けぬ。我に服従せよ、愚かなる者>
さすがに現代魔術では古代語を誤認識させることはできず、私が魔術を放つ波動を感じたらしい国王とケヴィンがこちらに視線をやるのを感じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...