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賢者、王都から旅立つ。
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にこっと人懐こく彼は笑ってくるが、国王たちと同じようにやはり目が笑っていない。
何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか──初対面だし、ついさっき紹介されただけで口すら利いていないのに、一向に心当たりがない。
「……あいつ、まだあんたにご執心なの?」
「もう20回は振りましたよ!いいかげん妹にも絡まれるんで、そっちとくっつけばいいんですよ」
後ろでヒソヒソと女性ふたりが私のローブに隠れながら、うんざりしたように話している。
「あいつは宮廷魔術師の頭だ。ミウの両親が率いる魔術協会に所属していたが、今は違う。むしろミウのことがあったから外れたとも言えるらしい。ミウに近付く男たちに向かって喧嘩を売るのが趣味なんだ」
デューンが小声で教えてくれたが、それはたぶん『趣味』じゃなくて──
「やあ!素敵なローブ……そんな物でも着けてないと、お相手も見つからない……おっと失礼。お仲間にも恵まれないのでは、本当に『賢者』殿ですかね?」
「……パトリック賢者様は別に『お仲間探し』をしていたわけじゃないわ。私が声を掛けたの!失礼なこと言わないで!」
「おお!ミウ!君はやはりいつも通り美しく優しい。こんな取るに足らない……失礼。実力も伴わない『名ばかり賢者』……いやいや、失礼。僕としたことが……ローブを着ているだけの者であれ、やはり勇者パーティーに『賢者』は付き物だからね!ああ僕が『宮廷魔術師長』の肩書をいただいていなければ、何を置いてもはせ参じるのに!」
「あなたがどんな肩書を捨てようと、勇者パーティーに入ってもらうかどうかはリーダーが決めることだし、私はいつでも反対するわ」
「ああ!何て嘆かわしい……実力を見誤るなんて、とんだ認識疎外の術式を組んだものだ……」
「……この場合、私も反論していいものなんですかねぇ?」
少しばかりムカついて、思わずミウに確認を取った。
何を言っているのかとミウはキョトンとしたが、わからないままに頷きを返してくれる。
「え?何?この失礼男に言えることがある?あるの?何を言ってくれるの?!」
何故だかミウではなく、ラダがワクワクとした顔をして私を見上げた。
やはりこの宮廷魔術師は腕だけは確かのようである。
「……『とんだ認識疎外の術式』を組んでいるのはあなたですよね?何せ今私たちが話していることは、国王陛下たちにはまったく違う友好的な会話に聞こえているでしょう。ケヴィンもあちら側にしてるから、私に向かって『失礼なこと』を連発しているのも聞こえていないか、別の意味に聞こえているんですよ。だからああいう顔で『仲良くやってるな~』ってニコニコしている」
「あ~……なるほど」
今まさにケヴィンがニコッといい笑顔で手を振ってくるのを見て、三者三様で目の前に進み出てきた宮廷魔術師長とやらを睨みつけた。
私は最初からわかっていたから、別段どうということもない。
「ちなみに『白雷の翼』パーティーの彼らはすでに私の認識疎外の術から外れています。勇者剣士のケヴィンは最初から私の本当の姿を見ているし、ラダとデューンに関してはミウが最初に紹介してくれましたから、発動しないようにしています。ちなみにあなたにはこの術式は解けませんよ?」
何せこのマントに編み込まれている術式は古代語でローレンスが組み立てたものであるから、現代語魔法しか使えない魔術師には、『何か文様が刻まれている』としか見えないはずだ。
たぶん『認識疎外の術である』というのはほぼ彼のあてずっぽうだろう──魔術師はそういうローブを羽織る者が多いという『常識』からの発言だと思われる。
それはどうでもいいのだが──思わずカチンときた私はそのまま言い返せない若造に向かって、古代語で宣言をした。
<貴様の思い上がりがその舌を凍らせる。我がこの地離れるまでは、その呪いは解けぬ。我に服従せよ、愚かなる者>
さすがに現代魔術では古代語を誤認識させることはできず、私が魔術を放つ波動を感じたらしい国王とケヴィンがこちらに視線をやるのを感じた。
何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか──初対面だし、ついさっき紹介されただけで口すら利いていないのに、一向に心当たりがない。
「……あいつ、まだあんたにご執心なの?」
「もう20回は振りましたよ!いいかげん妹にも絡まれるんで、そっちとくっつけばいいんですよ」
後ろでヒソヒソと女性ふたりが私のローブに隠れながら、うんざりしたように話している。
「あいつは宮廷魔術師の頭だ。ミウの両親が率いる魔術協会に所属していたが、今は違う。むしろミウのことがあったから外れたとも言えるらしい。ミウに近付く男たちに向かって喧嘩を売るのが趣味なんだ」
デューンが小声で教えてくれたが、それはたぶん『趣味』じゃなくて──
「やあ!素敵なローブ……そんな物でも着けてないと、お相手も見つからない……おっと失礼。お仲間にも恵まれないのでは、本当に『賢者』殿ですかね?」
「……パトリック賢者様は別に『お仲間探し』をしていたわけじゃないわ。私が声を掛けたの!失礼なこと言わないで!」
「おお!ミウ!君はやはりいつも通り美しく優しい。こんな取るに足らない……失礼。実力も伴わない『名ばかり賢者』……いやいや、失礼。僕としたことが……ローブを着ているだけの者であれ、やはり勇者パーティーに『賢者』は付き物だからね!ああ僕が『宮廷魔術師長』の肩書をいただいていなければ、何を置いてもはせ参じるのに!」
「あなたがどんな肩書を捨てようと、勇者パーティーに入ってもらうかどうかはリーダーが決めることだし、私はいつでも反対するわ」
「ああ!何て嘆かわしい……実力を見誤るなんて、とんだ認識疎外の術式を組んだものだ……」
「……この場合、私も反論していいものなんですかねぇ?」
少しばかりムカついて、思わずミウに確認を取った。
何を言っているのかとミウはキョトンとしたが、わからないままに頷きを返してくれる。
「え?何?この失礼男に言えることがある?あるの?何を言ってくれるの?!」
何故だかミウではなく、ラダがワクワクとした顔をして私を見上げた。
やはりこの宮廷魔術師は腕だけは確かのようである。
「……『とんだ認識疎外の術式』を組んでいるのはあなたですよね?何せ今私たちが話していることは、国王陛下たちにはまったく違う友好的な会話に聞こえているでしょう。ケヴィンもあちら側にしてるから、私に向かって『失礼なこと』を連発しているのも聞こえていないか、別の意味に聞こえているんですよ。だからああいう顔で『仲良くやってるな~』ってニコニコしている」
「あ~……なるほど」
今まさにケヴィンがニコッといい笑顔で手を振ってくるのを見て、三者三様で目の前に進み出てきた宮廷魔術師長とやらを睨みつけた。
私は最初からわかっていたから、別段どうということもない。
「ちなみに『白雷の翼』パーティーの彼らはすでに私の認識疎外の術から外れています。勇者剣士のケヴィンは最初から私の本当の姿を見ているし、ラダとデューンに関してはミウが最初に紹介してくれましたから、発動しないようにしています。ちなみにあなたにはこの術式は解けませんよ?」
何せこのマントに編み込まれている術式は古代語でローレンスが組み立てたものであるから、現代語魔法しか使えない魔術師には、『何か文様が刻まれている』としか見えないはずだ。
たぶん『認識疎外の術である』というのはほぼ彼のあてずっぽうだろう──魔術師はそういうローブを羽織る者が多いという『常識』からの発言だと思われる。
それはどうでもいいのだが──思わずカチンときた私はそのまま言い返せない若造に向かって、古代語で宣言をした。
<貴様の思い上がりがその舌を凍らせる。我がこの地離れるまでは、その呪いは解けぬ。我に服従せよ、愚かなる者>
さすがに現代魔術では古代語を誤認識させることはできず、私が魔術を放つ波動を感じたらしい国王とケヴィンがこちらに視線をやるのを感じた。
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