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賢者、王都から旅立つ。
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その後も国王から解放されることなく、私たちは一団となって王宮左翼にある冒険者ギルドに向かう。
さすがに国王や宰相などがこちらに来ることは珍しいのか、左翼にいる者全てが跪き、気易かった雰囲気が一転してうっとおしいほどの仰々しさに変わった。
「……せっかくだから、ここの平素の様子を知りたいんだが……私が来ると、いつもこうなってしまうのだ……」
ハァ…と溜息をつかれるが、それは仕方のないことだろう。
たとえ宮服など身に着けずとも、この王宮に出入りする者ならば国王の顔を見間違えるはずもない。
「ハハハ……しかしこのような場所は他国にはないでしょうから、『他の場所ならば変装されればいいですよ』とは言えませんしねぇ。いえ、でもここは楽しいですね。この左翼と同じような造りの建物が商店街にもあれば、こっそり訪れることはできるかもしれませんが」
「ほう……なるほど……そうか、王宮の外に……」
ふむふむと国王が頷くと、その後ろで宰相が財務大臣とこっそり話し始め──私は変なことを、いや大変なことを言ってしまったのかもしれない。
国王は左翼の中でも奥の方に興味がありそうだったが、まずは入り口側にある冒険者ギルドの方を解決するのが先である。
ギルド内でももちろん大勢の冒険者たちに傅かれてしまったが、売買カウンターの方ではそうはいかなかった。
正確には誰も動けない状態である。
ツルハシ、ハンマー、ドリル、大斧…といった得物をそれぞれ振り上げようとしていた者たち、攻撃呪文を唱えて発動させようとしていた者たち、聞こえた感じでは私が学び直した古代語よりもずっと現代語に近い『新・古代語』と分類される言語で何とか解呪しようと試みている者たち──すべてが国王や重鎮たちの姿を見て、自ら金縛りにかかってくれたようだった。
「……なかなか、楽しいことをしているようだな?」
「ええ、このように王宮内の施設を破壊するほど……しかも見たところ、様々なパーティーの冒険者たちのようですが、徒党を越えて組んでの狼藉ですかな?」
目には怒りを浮かべて口は笑いの形に──王族とは器用だと思ったら、後ろに続く貴族たちも同じような顔をするか、血の気が引いた顔色をしている。
「……笑っているのはここに冒険者ギルドがあることをあまり良く思っていない貴族たちで、青褪めているのはあそこで固まっている冒険者たちに支援している貴族……ですね、きっと」
コソッとミウが教えてくれる。
中にはこの国の者ではない冒険者も混じり、どうにかしてミウの討伐部位を封印された布の下から取り出そうとしたらしいのだが、私が先に忠告したように床石を壊して掘っても無駄だったというのが見てわかった。
「……面白いな、古代語の呪文というものは」
「ええ。現代での魔術ではこのような地中にまで固定化が及ぶようなものはありませんからね。ぜひ彼を宮廷魔術師として迎えたいぐらいです」
掘られた穴を覗き込む王に追従するように、ぼんやりとした男が頷いた。
『ぼんやり』というのは表情だけでなく、その存在まで霞んでいるようで、どうやら私が纏っているローブと同じような作用のある物らしい。
さすがに国王や宰相などがこちらに来ることは珍しいのか、左翼にいる者全てが跪き、気易かった雰囲気が一転してうっとおしいほどの仰々しさに変わった。
「……せっかくだから、ここの平素の様子を知りたいんだが……私が来ると、いつもこうなってしまうのだ……」
ハァ…と溜息をつかれるが、それは仕方のないことだろう。
たとえ宮服など身に着けずとも、この王宮に出入りする者ならば国王の顔を見間違えるはずもない。
「ハハハ……しかしこのような場所は他国にはないでしょうから、『他の場所ならば変装されればいいですよ』とは言えませんしねぇ。いえ、でもここは楽しいですね。この左翼と同じような造りの建物が商店街にもあれば、こっそり訪れることはできるかもしれませんが」
「ほう……なるほど……そうか、王宮の外に……」
ふむふむと国王が頷くと、その後ろで宰相が財務大臣とこっそり話し始め──私は変なことを、いや大変なことを言ってしまったのかもしれない。
国王は左翼の中でも奥の方に興味がありそうだったが、まずは入り口側にある冒険者ギルドの方を解決するのが先である。
ギルド内でももちろん大勢の冒険者たちに傅かれてしまったが、売買カウンターの方ではそうはいかなかった。
正確には誰も動けない状態である。
ツルハシ、ハンマー、ドリル、大斧…といった得物をそれぞれ振り上げようとしていた者たち、攻撃呪文を唱えて発動させようとしていた者たち、聞こえた感じでは私が学び直した古代語よりもずっと現代語に近い『新・古代語』と分類される言語で何とか解呪しようと試みている者たち──すべてが国王や重鎮たちの姿を見て、自ら金縛りにかかってくれたようだった。
「……なかなか、楽しいことをしているようだな?」
「ええ、このように王宮内の施設を破壊するほど……しかも見たところ、様々なパーティーの冒険者たちのようですが、徒党を越えて組んでの狼藉ですかな?」
目には怒りを浮かべて口は笑いの形に──王族とは器用だと思ったら、後ろに続く貴族たちも同じような顔をするか、血の気が引いた顔色をしている。
「……笑っているのはここに冒険者ギルドがあることをあまり良く思っていない貴族たちで、青褪めているのはあそこで固まっている冒険者たちに支援している貴族……ですね、きっと」
コソッとミウが教えてくれる。
中にはこの国の者ではない冒険者も混じり、どうにかしてミウの討伐部位を封印された布の下から取り出そうとしたらしいのだが、私が先に忠告したように床石を壊して掘っても無駄だったというのが見てわかった。
「……面白いな、古代語の呪文というものは」
「ええ。現代での魔術ではこのような地中にまで固定化が及ぶようなものはありませんからね。ぜひ彼を宮廷魔術師として迎えたいぐらいです」
掘られた穴を覗き込む王に追従するように、ぼんやりとした男が頷いた。
『ぼんやり』というのは表情だけでなく、その存在まで霞んでいるようで、どうやら私が纏っているローブと同じような作用のある物らしい。
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