すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都から旅立つ。

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前半部分はうっとおしいこともあったが、まあまあ和やかに会食は進み、最後の最後にもうひとつの問題を解決することとなった。
「王宮左翼にある王宮内冒険者ギルドである事件が持ち上がったとか」
「王宮左翼……?」
国王からそう切り出されたが、一瞬私には何のことかわからず、思わず首を傾げる。
「あっ…ああ!この王宮で開かれる大舞踏会の間を胴体に見立てて、今いる場所が王宮右翼、昨日行った冒険者ギルドや商店、食事処がある方が左翼、そして国王陛下たちの生活の場所である後宮を尾、町に向かって広がっている広場を頭というふうに『大鷲』のように見立てているんです。登殿するために王宮へ来て見ると、左翼は右側になるんですけどね……そうしないと、王族が国民に対してお尻を向けていることになってしまうのです」
「あ~……なるほど。面倒だけど……うん、そういうこと……」
ミウが小声で丁寧に説明してくれ、ようやく私は納得した。
王が言い出した問題はきっと、ミウがギルドに納品売却しようとした討伐部位が動かせない件だろう。
そういえばあれは今日この謁見が終わり次第向かうはずだったのだが、思いがけずこうして食事をするまで時間を引き延ばされてしまったのは、冒険者ギルド内だけで『納品物未回収で床に放置』というのが隠しきれなくなってしまったのかもしれない。
「いやはや……まさか王宮内にある冒険者ギルドで、国王の名において認めたはずの勇者パーティーに加入しているAランクの強弓使いが仕留めた魔獣の討伐部位に対して言いがかりをつけるだけでなく、正規の買い取り金の支払いを拒否したり、あまつさえどうにかして品質を損なおうとするなど……なかなか責任問題に発展することをやらかしてくれてな」
「はぁ……」
「おかげで冒険者ギルドの世界機構に関して、こちらで責任者を選定する権利を要求できることとなった。大賢者パトリック殿には感謝してもしきれん。ちなみにトリウス伯爵令嬢……いや、勇者強弓使いのミウ殿の納めた討伐部位に関しての品質鑑定書については正確に記されており、今現在どのような状態にあっても、その鑑定書に見合った金額を速やかに支払うようにと命じておる。手数をかけるが、大賢者パトリック殿には拘束の魔法陣を解いていただきたい」
にっこりと笑って告げるその顔は、いろいろと国際的な問題を解決するだけの度量のある者の顔つきだった。


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