すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者。勇者剣士と合流する。

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荷物をまとめ、すでに効果の無くなった魔法陣や呪を施した紙を跡形もなく焼き尽くしてから、その灰もすべて私は自分のマジックバッグにしまい込んだ。
ラダはそんな私がやることを不思議そうに見ながら、そのまま口に出す。
「パトリック……様?一体何…を?」
「ハハ…呼び慣れないのでしたら、別に敬称はなくていいですよ。元々『様』付されるような身分じゃないですし。まあ……滅多にないのですが、万が一『再生』の魔術を使える者がいたら、この灰から古代語の魔法陣を再生させてしまえるかもしれないので。古代語が読めたり発音できるかどうかはともかく…なんですが」
「『再生』魔術?何ソレ?ヤバくないのっ?!」
「ヤバいですよ、普通に。生命の再生は禁忌中の禁忌ですし。無機物を再生したとしても、完全に・・・再生することは難しい。何かしら欠点ができるはずですから、使うというよりは『眺める』ぐらいしかできない」
「そう…なの……?」
ラダがミウを振り返って確認すると、コクンと力強くその小さな頭が振られる。
古代も現代も人間では・・・・その術を完全に習得することはできていない。
できるとするならば──
「古い古い文献では『できた』という話があるらしいんだけど、それをやったのは人間ではなく……『魔王』のみ」
でしょうね。
おそらくミウの知っている話は間違いではなく、ただそれを信じるかどうかは、魔力と魔術を過信しすぎているかどうかによるところ。
私にはできないだろうしやりたいとも思わないのだけれど、きっとミウの両親が所属している魔術協会では日夜その研究に明け暮れている者がいるだろうというのは、当たらずとも遠からずという気がしている。
そんなふうに考えながらミウを見ると、まるで私が見透かしていると思ったのかパッと顔を背けられてしまった。
万が一その禁忌を為そうとしていても、ミウ自身が唆したわけでもなく、ミウの責任ではないのだが、やはり嫌って嫌われていても『家族』が行ったことに罪悪感を持っているらしい。


少し雰囲気がぎこちなくなりつつも部屋に忘れ物がないかどうかを念入りに確認し、私たちはようやく退出し、今夜から寝泊まりするところはまた別に探すということで、宿を去ることを伝えに受付へと回った。
そこにいたのは昨日までの受付嬢ではなく、まったく見たことのない男性であったが、どうやらあちらは私たちのことをよく知っているらしい。
「おはようございます!勇者様ご一行。ご出立ですか?よろしければ王宮までお使いを出しますので、あちらの別室でお待ちになっては?」
「いや、いい。だが使いは出してくれ、カノン。俺たちは別宿にいるリーダーと合流してからすぐに向かう」
「えっ?!も、もう勇者ケヴィンも戻られていらっしゃるのですかっ!きっと第二王女様もお喜びにっ……」
「あ、カノン!いいわ!お使いは出さないでっ!」
「そうそう!王様ビックリさせたいから!」
「え~~………」
あからさまにガッカリした様子のカノンと呼ばれた青年だが、ラダとミウがグッと受付に身体を寄せると顔を赤くしながらニヘラと相好を崩した。
「そ、そうですか……よろしければこの宿から凱旋パレードでも出れば、少しでも名誉回復になるかと思ったのですが……」
「いやいやいや!もう王宮ではこの宿屋が要注意って知られ切っているでしょう?!逆にパレードが出たら恥かきものよ?!」
「そうだよ!今は大人しくしておいた方がいいよ?!じゃないと、こっそり調べられるだけじゃすまなくなって、あなたの責任問題にまでなるかもよ?!」
「えっ!えええっ?!そ、それはダメです!わ、わかりました……王宮から再営業の許可が出るまでは大人しくしています……」
「そうそう!そのほうがいいよ!!」
「わかってくれてよかった!ありがとう、カノン!」
若い女性二人が交互に礼を述べるのを聞いて、一瞬だけしょんぼりしていた青年はパァッと顔を明るくする。
ずいぶんわかりやすい性格らしい。
「ええ!その際にはぜひまたこちらをご利用ください!今は宿屋主人代行ですけど……」
どうやら昨日の騒ぎでしばらく休業になってしまったらしい宿を後にして、私たちはミルベルの店へケヴィンを迎えに出発した。


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