すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者。勇者剣士と合流する。

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ケヴィンとミルベルに会いに行く前にも飲み食いしていたが、さすがに身体の大きなデューンはさほど酔っていなかったらしく、なかなかの豪飲である。
料理も次々と彼の口の中に吸い込まれ、『酒飲みに食べる物はいらない』というタイプではないことはわかった。
酒の量はともかく、ラダも女性にしては健啖家で、明日の昼ぐらいまで持つかもしれないと思った料理が綺麗に消えていく。
「私もお酒が飲めたらな~」
「あれ?もう成人したのでは?」
「成人はしたけど……お酒を飲んでも美味しいと思えないんです……」
そういうミウの手には昨日と同じくアルコールなしの果実水が入ったコップがある。
考えてみたら酒を飲んでいるところを見たことがないと思ったが、単にミウは飲めない体質とわかり、冒険者皆が飲めるものでもないのだと私は初めて知った。
それでも個人の酒量を考えずに冒険者たちは成人していようといまいと、無理やり酒を押しつけられたことを思い出したが、あれは私が『男だったから』という理不尽な理由だったのかもしれない。
しかしだからといってデューンもラダも正体を失くすようなこともなく、単に少しご機嫌になるだけであったのはありがたい。
何度目かの転生で味わった冒険者生活の中では、酔いが回ると突然自分の武器を持ち出し、斬り合いを始める手合いもいたのだ。
あまり良く覚えていないうちに人生を終えたことがある気がするが、ひょっとしたら私も酔っぱらっていて、手元と足元の狂った同業者に刺されたか斬られたかで、そのまま死んでしまったのかもしれない。
考えてみたらゾッとする話だが、それをほぼ覚えていないということは、よほど実りのなかった人生だったに違いなかった。


酒盛りは進み、もちろん時間も進んでいく。
夜もいい頃合いに深まった頃、私たちの部屋の扉をそっと開けて忍び込んでくる人影があった。
しかもひとりではなく──ふたり、さんにん、と数えると合計で十二人も足音を殺して、今のソファにもたれかかるデューンや私に近付こうとしている。
──が。
「うっ……動けっ……」
ガクンッと楔でも打ち込まれたかのようにひとりの足が止まると、連鎖して侵入者たちは皆動きを止めた。
狸寝入りをしていたデューンがわざとらしく伸びをすると、座っていても小山のようなその大きさに、みるみる侵入者たちの顔色が悪くなっていく。
スッと私が腕を動かし壁際にあるろうそくすべてに火をつけて部屋を明るくすると、性懲りもなく宿屋の主人や見た覚えのある面々の他、意外なことにルルカを連れ去ったと思しき男女ふたり組も私が張った拘束の罠に捕まっていた。
「……おやおや。紛い物のテイマーさんもご一緒に。いかがいたしました?こんな真夜中に」
「ウッ…グッ……」
何か言いたそうだったので、とりあえずは喉元に声を出せる呪符を貼ると、言いたいことよりも思っていることの方がうるさいくらいに流れ出す。
『このぉ!せっかく盗んだチェリーモンキーだっていうのに!勝手に持っていきやがって!!』
『早く取り返さないと!依頼主に「勝手に使って逃がした」って賠償させられるじゃない!しかもあんな珍しい毛色のモンキーなんて、二度と手に入らないのよ!返してもらわないと、大損害だわ!』
「ひっど……」
「うわぁ……」
ラダとミウがドン引きで呟き、本心を音声化する呪符を貼られた男女を汚い物でも見る目で睨みながら一歩退いた。
しかもそれは私たちだけでなく、足が床に貼りついて動けないはずの『仲間』たちですら巻き込まれまいとするかのように、わずかでも身体を動かしてふたりから遠ざかろうとしている。
『なっ、何だよっ?!俺らが盗んだ獲物を売り捌く協力してるくせに!』
『そうよ!あの白い犬だってきっとすごい値打ちだろうから、鍵さえ盗めば犬を取り上げられるって言ったの、あんたたちじゃない!』
かろうじて動く頭を左右に動かして周りをギロッと睨みながら、どうやら思ったことが声として伝わると理解したらしいふたりは、なりふり構わず道連れを増やしにかかった。


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