すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者。勇者剣士と合流する。

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わずかに拗ねたようなケヴィンではあったが、ウルが察してその足に真っ白い毛皮を擦りつけると、途端に表情が明るくなる。
どうやらずいぶん動物好きらしい。
どういう理屈かわからないが、私がミウ以外のメンバーとも心を許せる仲になれば、きっとウルの話している言葉もわかるようになるだろう。
今もウルは何かと忙しく話しかけているのだが、ケヴィンはさっぱり理解せずに屈みこんでワシャワシャと胴体を包み込むように両手で撫でていた。
ミルベルはそばで笑いを堪えるように、ぷくっと頬を膨らませて顔を赤くしている。
もちろんミウも──
「ね、ねぇ?一体どうしたの、あのふたり……」
ラダが変なものを見る目でミルベルとミウに視線を向け、こそっと私に聞いてきた。
「……あのふたりにはウルの話していることが理解できているんです。今あの子は一所懸命ケヴィンを慰めているんですよ。『置いていかれても悲しくないよー。私がいるから!一緒に遊びましょう!遊んだら悲しいの忘れますから!』って……」
「で、ケヴィンが『お兄ちゃん寂しいよー。置いてけぼりだよー。一緒に遊んでよー』……って?そ、それは…ウプププッ……」
噛み合っていないのに、お互いに「慰めてあげる」「慰めてちょうだい」と言い合っているのだから、すれ違い度が半端ない。
「さっきも思ったが……やはり我々にはただの息遣いや少し吠えているだけにしか聞こえないんだがな……」
「そうですね……ミルベルは血筋からして魔獣たちの声を言語として受け入れやすいんでしょうが、ミウは私があの子を従魔とした時から一緒にいますから、きっと繋がりやすかったのかもしれません。まだ推測でしかないので、確かなことは言えないのですが……」
「ふぅん……いいなぁ……」
ラダが少し羨ましそうに呟く。
わずかに視線を動かして見下ろすと、まだ嫌悪感や恐怖感はありそうだが、それ以上にグイグイとケヴィンと押し合いじゃれ合っているとしか見えないウルの方をぽぅっと見つめていた。
デューンが苦笑しながらさらに小さな声で私に囁いてくれる。
「……本当は動物好きなんだ、ラダは。ウルフ系魔物っていう偏見というか恐怖心というか……まあそんなのが無くなるか、慣れればきっとあの……ウルだったか?アレのことも可愛がるだろう」
「なぁに?何か言ってんの?」
「いや。ケヴィンが子供っぽくて可愛いだろうと言っていただけだ」
ラダが腰を引きつつ見上げてくる方がよっぽど子供のようで可愛らしいが、デューンが誤魔化したところを見ると、この話題を引きずらない方がいいらしい。


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