すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間を侮られる。

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後ろから誰かが大声で叫んでいるような気もしたが、私たちは誰も振り返ることなく、馬車が3台は通れそうな広場から正門まで景色を楽しみながら歩く。
不思議な王宮だ。
広場の両側には深い堀があって王宮をぐるりと囲んでいるが、さらにその外側を新緑樹が取り囲んで、まるで博物館や何かのようである。
「しかも中は王の執務部分と、冒険者ギルドのための中立帯が左右に分かれてあるとか……あまり他の国ではないような造りですよね」
「ああ、何でも王族の誰かが冒険者で、街中にある冒険者ギルドに簡単に行けなかったのと、やはり中立地帯があることで冒険者なりたての若い者が叩きのめされり、騙されたりすることがなくなる……という思惑で造られたらしい。歴史に名の残るような冒険者ではなく、存分に洗礼を受けたからこそ、王族でありながらあのような施設を思いついたのだろう」
「なるほど」
共同でダンジョンクリアを目指すこともあるが、いつでも仲良しでいられるわけではないほど、冒険者稼業は優しいものではない。
しかしそんな思いで造られた冒険者ギルド内で不正が行われているかもしれないと知れば、永眠についたはずのその王族冒険者すら目覚めて、情けなさで泣くだろう。


そのまま私たちは王宮から歩いてミルベルの店に向かった。
前を歩く二人の女性はまだ何やら賑やかに話しているが、視線があちらこちらと揃って動いているところを見ると、どうやら周囲の店の品定めをしているらしい。
「……ミウは本来ならば冒険などに出ず、綺麗なドレスを着て危険などとは無縁の生活を送れるはずなのにな。あの子がそれこそあの冒険者ギルドに初めて訪れた時にも助ける者がおらず……ケヴィンが声を掛けて一緒に魔物討伐に行ったんだが、あの強弓をバカにできる奴らがどれだけ強いのかと思ったら……」
フッとデューンが何かを吹き飛ばすような仕草をしてみせる。
なるほど──ミウ本人はサラリと冒険者になった経緯を話してくれたが、普通の冒険者では到達できないような速さでの昇級は、やはり妬みと嫌味が付き物だったらしい。
「でも……良い子ですよ。ザイという町で迷子になりかけていた時、声を掛けてもらって。ギルドのある場所を教えてもらって、不思議な子だなぁ~…って思たんですけどね。後でまた会って、私が『賢者』ということでパーティーに誘われたんですけども」
「うむ。あの子は不思議と『見る目』がある。あんたに何か感じるものがあったんだろうな」
「ハハ……フリーの賢者がなかなか見つからなくてと言ってましたけど」
「それもあるが……俺もラダも、そしてケヴィンも『賢者』には出会えなかった。しかしミウだけ見つけられた。そういう子なんだ」
どういうことかよくわからなかったが、とにかくそういうことらしかった。


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