すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
87 / 248
賢者、仲間を侮られる。

12

しおりを挟む
そうなるとわからないのは、デューンとケヴィンという若者がどうして知り合ったのかということだが──それはまた、ミルベルの店に行って本人に聞けばいいかと思い返し、まるでミウの守護神のように睨みを利かせている巨体を見る。
ギルド長は忌々しそうにカウンターで待つミウたちと、後ろに下がって鑑定が終わるのを待っている私たちをそれぞれ見比べ、嫌な笑いを浮かべて受付嬢に何か言ってから奥の部屋へと消えた。
その囁きを頷きで答えた受付嬢は、また別の紙を取り出して何か書いてからミウへと差し出す。
「……んんっ?この報酬がこれだけって、おかしいですよねぇ?」
「えっ?そ、そうですかぁ?でもこの程度ですしねぇ……」
ニコニコと笑ってはいるが、それは暗にミウの持ち込んだものの質が悪いと言っている──さっきまではとびきり上質の物だと騒いていたのに、態度も言っていることも正反対だ。
しかもミウのマジックバッグに入っていたとはいえ、バッグの中で腐らないようにと鮮度保存の魔法陣を描いた包み紙を使用しており、それは取り出す際に獲物の下に敷かれたままで効果が失われていないのは施した私自身が知っている。
デューンもおかしいと思ったのか、重たい口を開いた。
「……ああ。俺がこの間持ち込んだゴブリンの魔石イヤリングがついた耳はこの五分の一だが、切り口の状態が悪かったにもかかわらず、ミウの倍を支払われた。だいたいビッグラビットは需要が高いから、いつも品薄なはずだ」
「そっ…それはっ……それだけお支払する褒賞額のご用意がなくっ……」
「王宮ギルドで?」
それは無茶が過ぎる言い訳だった。
この王宮内商店街とも言えるこの場所にある冒険者ギルドで、冒険者に支払う金貨を用意できないなど前代未聞どころか、他国の冒険者に向かってこの国の財政力が危ないとわざわざ大声で宣伝しているようなものである。
しかもそれが単なる冒険者パーティーではなく、王命を受けて魔族退治に出て行く勇者パーティーへの一員への嫌がらせとしての行為となると──
ミウは身体を捻るようにして、後方で待つ私とラダに向かって明るく言った。
「わかりました。パトリック賢者様、ご面倒ではありますがまた・・陛下に拝謁しなければなりません」
「……え?『また』って……」
「ついさっき、賢者様が王都に来られたことを、陛下にご報告しに登殿したんです。本来ならば勇者ケヴィンとそちらで落ち合うはずだったんですが……まだ帰都していないということだったので、滞在連絡と討伐部位の引き取りをお願いしようと思ったんですが……そうですか。支払能力がないんですか。だったら陛下にこの冒険者ギルド内の収支帳簿と現在の討伐部位保管記録、その他諸々の財政記録の洗い出しをお願いして、ついでに今こちらにお願いしようと思っていた私の討伐部位を返してもらって王宮に納めましょう」
「えっ?えっ?!そっ、そんなっ……そんなことっ、できるわけっ……」
「……できるぞ?ミウはもう我が『白雷の翼』の正式メンバーだ。まさか俺やラダの滞在記録の際にメンバー登録の改竄までしたのか?なら、パーティーリーダーのケヴィンが持つ勇者カードの記録を待とう。ミウ、さっき出した部位をすべて引き上げろ」
「そうだね!こんなちょっとしかもらえないんなら、王宮で兵士たちに分けてもらった方がずっといいよ!ビッグラビットの肉は滋養豊富だし、毛皮はそのまま外交流通に乗せてもらっちゃえるし♪」
「ままままままって!待ってくださいぃぃぃ~~~………い、今……確認しますからぁ……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...