すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間を侮られる。

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1年でDランクからAランクへ最速で駆け上がったのは記録に値するかもしれないが、残念ながら冒険者という職業では、出世が早ければ早いほどいいというわけではない。
しかしその実力は、すでに魔力のこもった強弓が認めていた。
おそらく家族とはまったく違う、媒体がないと発揮できない魔力を持つ少女──だが両親は立場的にその才能を今さら認めるわけにもいかず、そして兄妹は事情を知らずにいまだにミウのことを侮り続けているのだろう。
「それでもケヴィンの目が節穴じゃないってことを証明したのは、やっぱりミウ自身でさ。王家の狩り場で実験体の魔鳥を放したんだけど、どこかの阿呆が予定していたより倍の数を用意しやがって……」
犯人はわからなかったものの、おそらくはギルド長の息がかかった者ではないかと囁かれているらしい。
ラダは素早く付け加えて、今はミウの持ち込んだ討伐部位の品質確認に追われている受付嬢たちを、イライラとしながら睨みつけているギルド長を睨み返した。
その視線に気が付いたギルド長がその目付きのままこちらに顔を向けたが、ラダと目が合うと慌てて反らしたから、その憶測はあんまり外れていないように思う。
「ミウはあり得ない速さで矢を連射したんだ。全部射落として、また新しく実験体を調達しないと……って、担当部署が泣いたって話」
クスクスと笑うラダ。
そして襲われる寸前だった関係者たちも、拾い集めた魔鳥の身体に刺さった矢に雷の魔力が纏われ、矢が刺さった衝撃と共に電撃で魔長たちが絶命したことを報告した──それもすべての魔鳥が。
そんな実力の持ち主が、単なるAランクパーティーに後衛補助戦闘力として参加するなどもったいないと思うのは当然だろう。
渋るミウの父親の意見はまったく聞き入れられず、ミウの兄を冒険者パーティーにと押す声は完全に黙殺されて、ミウ自身を望むケヴィンの望みは受け入れられた。
「まさかその推薦の推薦が、ケヴィンの一目惚れしたミルベルに結び付くなんて、アタシたちも思ってなかったけど……良い運周りってのはあるもんだねぇ」
ああ、とやっと私は腑に落ちた。
田舎から出てきた勇者剣士と王都育ちの天才強弓士が自然発生的に結びつく可能性など、そうそうないのだから。


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