すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間を侮られる。

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そんな面倒なことに付き合わなければならないのも、冒険者になる大半が、いや4分の3ほどが平民だからだという。
確かに私自身もだいたいは平民に生まれ、ポーターなどの荷担ぎや剣士や戦斧、防御役などを目指したが、だいたいは戦力不足で早々に死んでしまった。
何ら冒険へと駆り立てられることなく、知識を吸収することを至上とする人生や、土と向き合い汗を流して自然と競争する穏やかな人生ももちろんあったが──貴族として生まれ、そして冒険者になったことがないのに気が付く。
「もちろん貴族の中でも冒険気質と技術のバランスが取れて、ダンジョンクリアまでできるような人もいますが……それより王家の兵になる方がよっぽど安心安全です。魔物と戦うのだって攻めてきたら守るためだし、戦わなくたってお給金もらえるんですから」
だから国の兵力のほとんどは貴族やそれらの血縁の人たちだし、平民はそういう人たちが担わない農業や酪農に携わるのだ。
ミウが伯爵令嬢なのにこうして冒険者の最高峰ともいえる勇者パーティーに所属しているのは、はっきり言って異例中の異例である。
「特殊な家門の中で『平凡』もしくは『能力無し』と判断された者は、居場所がありませんから」
「……なるほどね」
本来、貴族令嬢ならば嫁ぐ先の家政を切り盛りし、夫のために社交という名の戦場で夫とは違う戦いに身を投じるのだが、ミウの場合は『魔力が他の血族より劣る』という理由のみで冷遇され、まずその場に出してもらえるだけの教養などを身につけさせてもらえるかどうかすら怪しい。
「だとすればそんな駒になるのは妹に任せて、私は私で生きていくって決めたんです!幸い私には『相棒』ができたし」
そう言ってキュッと握ったのは、ミウの持つ魔力を引き出してくれる強弓。
武器さえあれば、確かにミウはどうやったって冒険者として生きていける。
「それに運よく仲間も……あ!あそこです!あの店で待ってるって」
話しながら歩いていると、飲食店ゾーンに辿り着き、ミウは賑やかな酒場のひとつを指さした。


飲食ゾーンは街の商店街とはまた変わって、ここ三国にもないような珍しい料理を出す店がいろいろとあった。

辛い物がメインの店。
肉ではなく魚を、それも火を通さない生の状態で食べられる店。
野菜しか出てこない店。
氷菓やケーキなどの甘い物しかない店。
サンドイッチやチーズを練り込んだパンや、固く焼き上げたり茹でてから焼くパンなどパンばかりの店。
十数種類のスープしかない店。
干物やナッツ類などが酒と共に並ぶ店。

その中でも香ばしい油がパチパチと跳ねる音のする平たい鉄皿をいくつも並べて、白い酒器を傾けて小さなコップに注いではあおる二人組がいた。
「ラダ!デューン!」
「おっ!遅いよ!ミウ!!先に始めちゃ…って……って……誰?」
「うむ」
くるりと振り返ったのはミウよりも年上の、少女というのは失礼にあたるようなキリッとした女性と、無口そうな身体の大きな男。
男の方は、見た目は三十代に見えるが、年齢的には何となく私と同じぐらいのような気がする。
「……そちらが『大賢者様』か」
「え?このおと……いや、ひと、が?」
「魔術師のとはちょっと違うが、ローブを羽織っておられるだろうが」
最初にミウが声を掛けた時に軽く頷いただけだったので無口かと思ったが、案外そうでもないのかもしれない。
──と思ったが、単に言いたいことを言っただけで、別に自分が口を開かなくていい時は話さなくていいと思っているタイプの男だというのは、ラダというその女性に招かれてデューンと紹介された彼の横に座った後にわかった。


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