すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間を侮られる。

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そして──まさかそんな愚かなことを繰り返すとは思えないが、私は余計と思いつつももう一度釘を刺す。
「では、重ねて失礼ながら。第二王女様が覚えられたいことが『王都までの旅程』とのことであれば、そのための職業の者がおられますでしょう。将来、測量技師になりたいのであれば、私がお教えするよりはるかに詳しく役に立つ知識を覚えられるかと。また、単に私と食事をなさりたいというのであれば、それは国王陛下との公式な場でのみ同席いたしましょう。その際も決して隣席せず、直答は控えさせていただきますゆえ、ゆめゆめ御身に我ら・・が興味を持たれるなどと幻想はお持ちにならぬように……」

私、ではなく、我ら。
複数形。

まあ、まだ私はミウの仲間の誰とも会っていないし、特にパーティーリーダーで、ミルベルの恋人だというケヴィンという青年とは一面識もないのだから、本当に余計なお世話だとは思うけれど。
彼が否定したいのならば、自分の口ですればいい。
私がひっくるめて第二王女への恋慕を否定したのは、横で今にも弓を引かんばかりにミウが怒りを滾らせているのがわかるから──この国の『伯爵令嬢』として両親や家のことを考えれば、王族に対する不敬が許されない立場にあることを捨てられないから。
厳密に言えば、私だって他国とはいえ王族に向かって「君には女として魅力を感じないから、二度と話しかけないで」と直球を投げつけていいものではないが、『三国共有の称号』を得るということは、この三国内であれば私は何ものにも縛られることはないともいえる。
そこまで国王が王女に説明するだろうか──いや、したとしても理解するだろうか?
そして私が特定の国から『貴族籍の付与』を断るのは、こういった面倒を避けるためではなかったが、大義名分ができたことには感謝しよう。
「……というわけで、ますます爵位授与はお断りいたしますので、何卒よろしく」
それはもう心からの笑みを国王に向かって返せば、第二王女は怒りの表情から困惑に変えてしまうほどの憔悴ぐあいで、ガックリと膝から崩れ落ちた。


こうして不穏な感じで私は初めてで最後になるはずのローシャル・ルーフェル国国王との謁見を辞し、次は勇者パーティー『白雷の翼』全員が揃った時に『大賢者』称号の授与と次に向かうべき地を示されるということで──まあ、もらわなくても別にまだ古代語文書の発掘にひとり向かうというのも悪くないと考え始めていたのだが──呼び出されるとの言葉を賜る。
そうしてやっと私たちは解放され、表宮の左翼にある謁見の場とは反対の翼にあるという王宮のギルドへ向かった。

そこは屋内ではあるがまるで商店街のような造りで、中央部分が吹き抜けとなっている。
上階は回廊となっているようで、冒険者たちが気楽に歩き回っていた。
「凄いでしょう!ここでは喧嘩ご法度だから、冒険者同士でも親しく交流できるんです。ほら…表立って仲良くしてるとまずいこともあるから」
それはいわゆる派閥争いみたいなことなのだろう。
貴族がスポンサーになっていくつかの冒険者たちのパーティー活動を支援する代わりに、自分たちが要求するダンジョンをクリアしたり領内の魔物や魔獣を駆除する仕事を任せた。
その結果、貴族の派閥がそのまま冒険者パーティーの派閥化となり、元は友人なのに表向きは対立せざるを得ないとミウが説明してくれる。


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