77 / 248
賢者、仲間を侮られる。
2
しおりを挟む
そしてわざわざ出かけた王宮で──私もまた第二王女に気に入られたとかで、政を行う厳めしい謁見室に続く会議室ではなく、王女の私室がある後宮で食事を共にし、この王都に到るまでの冒険譚を話してほしいと要請され、却下した。
「……え?」
美しいだけで特に何も考えていない軽薄そうな人形顔が歪む。
「お断りします。食事は一緒に食べて楽しい人と楽しむ主義ですので。あなたに興味を覚えないので、私は特にあなたと親しくお話をする意義を見出せません」
「なっ……あ、あなたを国外追放しますわよ!」
「えぇと……たぶん、それは無理ですよ」
玉座に座るこの国の主を無視して王女は売り言葉を投げつけてきたが、私が彼女に向かって慌てるわけでも泣いて縋るでもなくサラッと返すと、声を出さずに震え出した。
「……そうだな。そなたを『国外追放』することはできないな」
「なっ……ど、どう言う意味ですのっ?!お父様っ!!」
公的な場にいるというのに、彼女はどうやら臣下としてではなく娘としての立場を優先させたいらしい。
「サラ……いや、第二王女よ。お前は私に何と言って同席を請うた?確か『大賢者という尊き称号を得る御仁にお目通り願い、どのように賢者の道を歩まれ、その域に達するまで修められたのかご教授いただきたい』と言ったのではなかったか?そして一度ならず二度までも、単なる食事の余興に己と話せなどと申しつけるとは……」
「でっ……でもっ……後宮から気軽に出られない王女であっても見聞を広げるのは大事だと、父上はおっしゃっていたではありませんか!であれば、このような取るに足らぬ身分でも、旅をしてきたという者の旅話を聞いてやることは大事ではありませんかっ!」
「……お前は確か勇者ケヴィン殿が参上した際も、同じように『見聞を広げるために、ご教授いただきたい』と宰相に掛け合い、無理やり食事に同席するようにと申したらしいな?」
「そっ……それはっ……」
王女の目が泳ぎ、実のところ目的はそれだけではなかったことを、百戦錬磨の国王の前で暴露してしまう。
「あー……恐れながら」
ミウがはーいと手を上げて、発言を求めた。
それは礼儀としては為ってないが、それは王女以上の不躾さを見せなければ場が収まらないと判断したのだろう。
「良い。発言を許す」
「うちのリーダーも朴念仁で。『お姫様に呼ばれて、何やら旅の無事を祈ると言われたけど、別に友人でもないのにあれって何だったんだろうな~?』と不思議がっていたんで、特にお気に掛けていただかなくともよいかと」
勇者パーティーのひとりが何を言うのかと戦々恐々とするお偉方の前で、ニコニコと庶民的な言葉も交えてミウが進言すると、国王もまた意味深に笑って頷く。
なるほど──ミウはいろいろと察しがよく、そしてパーティーリーダーはなかなか純朴な青年だ…ということらしい。
「どっ…どういう意味ですの?!」
特に発言を許されていないのに、第二王女はミウの言わんとすることだけは察しよく理解し、その上で金切り声で問うた。
「えー?ボカしてるのに、言っちゃっていいんですかぁ?」
そう言いながらいきり立つ王女から国王へわずかに顔を動かし、国王が軽く頷くとミウはハッキリと告げる。
「うちのリーダー、『勇者』の称号をもらったからって張り切って魔王を倒す!って言っちゃってるんですよ。でもそれって、王女様に褒めてほしいからっていう理由でもなければ、王女様を嫁にほしいって動機でもないんで。元々興味ないんで。てか、もう嫁いるんで、さっさと諦めた方がいいですよ?」
「え?は?」
「しかもそれ、私の親友なんで」
「え?」
王女の驚いた声に、私の声も重なる。
ミウの親友──勇者の嫁──大きな眼鏡をかけた、少女。
「……え?」
美しいだけで特に何も考えていない軽薄そうな人形顔が歪む。
「お断りします。食事は一緒に食べて楽しい人と楽しむ主義ですので。あなたに興味を覚えないので、私は特にあなたと親しくお話をする意義を見出せません」
「なっ……あ、あなたを国外追放しますわよ!」
「えぇと……たぶん、それは無理ですよ」
玉座に座るこの国の主を無視して王女は売り言葉を投げつけてきたが、私が彼女に向かって慌てるわけでも泣いて縋るでもなくサラッと返すと、声を出さずに震え出した。
「……そうだな。そなたを『国外追放』することはできないな」
「なっ……ど、どう言う意味ですのっ?!お父様っ!!」
公的な場にいるというのに、彼女はどうやら臣下としてではなく娘としての立場を優先させたいらしい。
「サラ……いや、第二王女よ。お前は私に何と言って同席を請うた?確か『大賢者という尊き称号を得る御仁にお目通り願い、どのように賢者の道を歩まれ、その域に達するまで修められたのかご教授いただきたい』と言ったのではなかったか?そして一度ならず二度までも、単なる食事の余興に己と話せなどと申しつけるとは……」
「でっ……でもっ……後宮から気軽に出られない王女であっても見聞を広げるのは大事だと、父上はおっしゃっていたではありませんか!であれば、このような取るに足らぬ身分でも、旅をしてきたという者の旅話を聞いてやることは大事ではありませんかっ!」
「……お前は確か勇者ケヴィン殿が参上した際も、同じように『見聞を広げるために、ご教授いただきたい』と宰相に掛け合い、無理やり食事に同席するようにと申したらしいな?」
「そっ……それはっ……」
王女の目が泳ぎ、実のところ目的はそれだけではなかったことを、百戦錬磨の国王の前で暴露してしまう。
「あー……恐れながら」
ミウがはーいと手を上げて、発言を求めた。
それは礼儀としては為ってないが、それは王女以上の不躾さを見せなければ場が収まらないと判断したのだろう。
「良い。発言を許す」
「うちのリーダーも朴念仁で。『お姫様に呼ばれて、何やら旅の無事を祈ると言われたけど、別に友人でもないのにあれって何だったんだろうな~?』と不思議がっていたんで、特にお気に掛けていただかなくともよいかと」
勇者パーティーのひとりが何を言うのかと戦々恐々とするお偉方の前で、ニコニコと庶民的な言葉も交えてミウが進言すると、国王もまた意味深に笑って頷く。
なるほど──ミウはいろいろと察しがよく、そしてパーティーリーダーはなかなか純朴な青年だ…ということらしい。
「どっ…どういう意味ですの?!」
特に発言を許されていないのに、第二王女はミウの言わんとすることだけは察しよく理解し、その上で金切り声で問うた。
「えー?ボカしてるのに、言っちゃっていいんですかぁ?」
そう言いながらいきり立つ王女から国王へわずかに顔を動かし、国王が軽く頷くとミウはハッキリと告げる。
「うちのリーダー、『勇者』の称号をもらったからって張り切って魔王を倒す!って言っちゃってるんですよ。でもそれって、王女様に褒めてほしいからっていう理由でもなければ、王女様を嫁にほしいって動機でもないんで。元々興味ないんで。てか、もう嫁いるんで、さっさと諦めた方がいいですよ?」
「え?は?」
「しかもそれ、私の親友なんで」
「え?」
王女の驚いた声に、私の声も重なる。
ミウの親友──勇者の嫁──大きな眼鏡をかけた、少女。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。


強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる