76 / 248
賢者、仲間を侮られる。
1
しおりを挟む
すべてを解読や翻訳できたわけではないが、テイマーとしての才能を魔王によって見出されてしまった木こりは、この町についてからもずいぶん苦労したみたいだった。
それはそうだろう──自分では正しい飼い主だと思っていた者たちから、ペットや冒険者のための道具として使役していた魔獣などを勝手に開放してしまったのだから。
しかもそれが『正しい』と証明する方法は目に見えるものではなく、正しく結び直せる人がすぐそばにいればいいけれど、そんなに都合良くいくものではなかったらしい。
それでも少しずつ正しい従魔契約の結び方を研究し、不完全ながらも契約者と従事させられる側のレベルの差で服従させられることまでは解明したと書かれていた。
しかしその方法自体はミルベルたち子孫には受け継がれているものらしく、ただその成り立ちがわかったことを感謝される。
「そういう苦労っていうのは、いつしか風化してしまうんだ……逆にそれを知らないから、どうして今のやり方ができたのかを研究して無駄な時間を使ってしまうこともある。あたしたちは幸せだ……ちゃんとそうやってご先祖が記録を残してくれたんだから……ねぇ~?」
まだ虚ろながらルルカというチェリーモンキーが目を覚ましたのを見て、ミルベルの表情が格段に柔らかくなる。
私は『従魔契約』の法則も気になったが、何より彼女自身に興味が湧いた。
時間が来て私はミウの案内で王宮へ向かう。
荘厳というより頑健な城郭はなかなか実用的だ。
「まあ、見かけはこうですけど、王様たちが住んでいる部分はすっごい贅沢だっていう話です。ほら、一応うちは『勇者』の名前をパーティーに戴いているんで、リーダーが私邸に呼ばれた時に話してくれました。何でも二の姫にお気に入られたとかで」
「お気に……」
「ええ。うちのリーダーは堅物なんで、華美壮麗なお姫様はけばけばしく見えたらしくって『あんなに宝飾品を身につけて重くないのかな?』って言ってました。見た感じ、まるで薄い鎧を着てるみたいに身体にピッタリして、そのまま戦場の後方ぐらいなら出れるんじゃないかとか……」
「ずいぶん……楽しい性格の人みたい……だね?」
「そうですねぇ。ケヴィンは確か……あっ!ケヴィンっていうのがリーダーです。勇者剣士です。18…19?それぐらいです。私よりお兄さんなのは確かですけど!」
そういえばミウはまだ16歳──私が思っているよりもずっと勇者パーティー『白雷の翼』は若い人たちの集まりなのかもしれない。
そしてやはり『勇者』のランクをもらう人たちというのは早くに頭角を現わすものなのかもしれないと思うと、短い人生を何度も繰り返してきた私には、剣や戦斧などの戦士系では適性がやはりなかったのだろう。
そこには少し──いやけっこう悔しい思いを感じるが、今回の私は20歳を過ぎても生きており、しかも古代の知識まで取り戻して三国から認められる『大賢者』に叙されるために王宮へ向かっているということも合わせて思い出した。
「……やっぱり、行くのやめようかな……」
「なっ……だっ、ダメですよ!!」
「ダメですかねぇ?宿屋かどっかでミウのパーティーの人たちに会うっていうだけじゃ……」
「いえいえいえ!ザイの町で話したじゃないですかぁ!!」
そうなのだ。
国境を越えて護衛した商会から私自身のことが発覚し、ミウが冒険者ギルドに問い合わせた結果、私の『賢者』レベルは『大賢者』にふさわしいとされてしまったのだった。
仕方なく私たちは立ち上がったが、そこに追い縋るようにミルベルの声が掛かる。
「ねっ、ねえ?また……来てくれるんだよね?」
「ええ。その日記をすべて翻訳したいと思いますし、従魔契約についても私自身は古代語で残されていたことしか知りません。逆にあなたにご教授いただきたいので、どうぞよろしくお願いしますね」
私が軽く手を振ってそう言うと、ミルベルは何故かじんわりと涙を浮かべて笑いながら、絶対ね!と念を押してから、私たちを送り出してくれた。
それはそうだろう──自分では正しい飼い主だと思っていた者たちから、ペットや冒険者のための道具として使役していた魔獣などを勝手に開放してしまったのだから。
しかもそれが『正しい』と証明する方法は目に見えるものではなく、正しく結び直せる人がすぐそばにいればいいけれど、そんなに都合良くいくものではなかったらしい。
それでも少しずつ正しい従魔契約の結び方を研究し、不完全ながらも契約者と従事させられる側のレベルの差で服従させられることまでは解明したと書かれていた。
しかしその方法自体はミルベルたち子孫には受け継がれているものらしく、ただその成り立ちがわかったことを感謝される。
「そういう苦労っていうのは、いつしか風化してしまうんだ……逆にそれを知らないから、どうして今のやり方ができたのかを研究して無駄な時間を使ってしまうこともある。あたしたちは幸せだ……ちゃんとそうやってご先祖が記録を残してくれたんだから……ねぇ~?」
まだ虚ろながらルルカというチェリーモンキーが目を覚ましたのを見て、ミルベルの表情が格段に柔らかくなる。
私は『従魔契約』の法則も気になったが、何より彼女自身に興味が湧いた。
時間が来て私はミウの案内で王宮へ向かう。
荘厳というより頑健な城郭はなかなか実用的だ。
「まあ、見かけはこうですけど、王様たちが住んでいる部分はすっごい贅沢だっていう話です。ほら、一応うちは『勇者』の名前をパーティーに戴いているんで、リーダーが私邸に呼ばれた時に話してくれました。何でも二の姫にお気に入られたとかで」
「お気に……」
「ええ。うちのリーダーは堅物なんで、華美壮麗なお姫様はけばけばしく見えたらしくって『あんなに宝飾品を身につけて重くないのかな?』って言ってました。見た感じ、まるで薄い鎧を着てるみたいに身体にピッタリして、そのまま戦場の後方ぐらいなら出れるんじゃないかとか……」
「ずいぶん……楽しい性格の人みたい……だね?」
「そうですねぇ。ケヴィンは確か……あっ!ケヴィンっていうのがリーダーです。勇者剣士です。18…19?それぐらいです。私よりお兄さんなのは確かですけど!」
そういえばミウはまだ16歳──私が思っているよりもずっと勇者パーティー『白雷の翼』は若い人たちの集まりなのかもしれない。
そしてやはり『勇者』のランクをもらう人たちというのは早くに頭角を現わすものなのかもしれないと思うと、短い人生を何度も繰り返してきた私には、剣や戦斧などの戦士系では適性がやはりなかったのだろう。
そこには少し──いやけっこう悔しい思いを感じるが、今回の私は20歳を過ぎても生きており、しかも古代の知識まで取り戻して三国から認められる『大賢者』に叙されるために王宮へ向かっているということも合わせて思い出した。
「……やっぱり、行くのやめようかな……」
「なっ……だっ、ダメですよ!!」
「ダメですかねぇ?宿屋かどっかでミウのパーティーの人たちに会うっていうだけじゃ……」
「いえいえいえ!ザイの町で話したじゃないですかぁ!!」
そうなのだ。
国境を越えて護衛した商会から私自身のことが発覚し、ミウが冒険者ギルドに問い合わせた結果、私の『賢者』レベルは『大賢者』にふさわしいとされてしまったのだった。
仕方なく私たちは立ち上がったが、そこに追い縋るようにミルベルの声が掛かる。
「ねっ、ねえ?また……来てくれるんだよね?」
「ええ。その日記をすべて翻訳したいと思いますし、従魔契約についても私自身は古代語で残されていたことしか知りません。逆にあなたにご教授いただきたいので、どうぞよろしくお願いしますね」
私が軽く手を振ってそう言うと、ミルベルは何故かじんわりと涙を浮かべて笑いながら、絶対ね!と念を押してから、私たちを送り出してくれた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。


強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる