すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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テイマー──従魔契約を結べる職業は、愛玩動物を飼うような簡単なものではない。
あまり知られてはいないが、テイマーには人間側で勝手に決めた『ランク』の他に、実は結べる種族やレベルがあり、それこそ多種多類に及ぶのだ。
皆が目指すのはもちろん高位魔獣や神獣といわれるドラゴン種などをテイムできるランクだが、実際はギルドと言われる人間のシステムで作ったランクなど意味がない。
単に『その種族と合うか合わないか』という感覚の方が近いだろう。
木こりだったミルベルのご先祖はテイマーとしての才能だけでなく、薬師としても様々なものを得たのは、おそらく全種類の魔植物や魔獣とテイムできたせいだろう──目の前の少女のように。
「……ああ、あいつが見つけた『魂』のひとつ、か」
小さすぎる呟きはミウにもミルベルにも届かなかったみたいだが、さすがにウルの耳には拾われたようで、珍しく無言でこちらへキョロリと可愛らしい目を向ける。
「ウル、やっぱり君は賢いね?しかし変異種とは……」
《へんいって何ですか?ウル、父とも母とも兄弟たちとも毛皮の色が違いました。父も母も一緒にいてはいけないと言いました。だから早く一族を出て行けと噛まれました……》
そうして何故か森の中で飲まず食わずの眠りにつき、私たちが訪れた時に目が覚めて──
「……ひょっとして、私の唯一の従魔……?」
伝説としてあると言われている『つがい』という結びつき。
それは婚姻や恋愛においての運命的な相手というが、それだけではない。
好敵手ライバル』という者や心から愛しく思える愛玩動物とか、命よりも大事な珍しい花とか──つまり『唯一』という生物が相応する。
もっとも対象は多岐にわたり、ウルが私の『唯一』の従魔かもしれないが、他にも『唯一』の友や、『唯一』の配偶者もいるはずだ──今世で出会えるとは限らないが。
だからこそ複数の『唯一』に会える人生は幸せなのかもしれないが、人は何よりも『唯一』の配偶者しか認めないのは何故だろうか。

しかしいったいどうして私は王宮に行く前にと寄ったこの不思議なテイマーの店で、古代語の本を読んでいるのか──正確には『木こり』本人とその娘が残した日記なのだが、あんがい私的な部分は少なく、この店を始めた頃からの覚書みたいなもので、どれだけの従魔を正しく開放し、望まれる縁を結んだのかを現代語に書き換えていた。
ただし今日はこの後王宮へ向かわねばならないため、できる限りの部分しかできず、この日記の現在の持ち主であるミルベルは自分の『唯一』の従魔であるチェリーモンキーのルルカを抱いて温めている。


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