すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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ふたり揃って声の方を見ると、恰幅の良いいかにも『肉屋のおかみさん』という女性が、ニコニコとこちらを見て笑っている。
「ちっ、ちがっ……こ、こちらはこの肉屋のおかみさんです。おかみさん、こちらはパトリック…様。私の加わっている冒険者パーティーの面せ……メメメメンバー!そう、メンバーなんです!一番新しい!それで、この子がパーティーの新しいマスコット!ウルちゃん!」
冒険者パーティーに愛玩動物を連れて行くというのはあり得ない話なのだが、まあそういった職業に縁のない人たちにとってはどうでもいいことなので、「あらぁ~、可愛いわねぇ~!」という言葉で流されてしまった。
ちなみにウルはミウに紹介された通りにウルなりに愛想を振りまいて、ついでにブンブンと尻尾も振ってくれている。
《ウルは何か忙しいです……パトご主人の従魔で、ミウ様のペットで、ぼうけんしゃぱーてぃーっていう人のますこっとっていうので……》
《うん、なんかいろいろ……ついでにロダムスの友で……いいんだよ、人間だっていろいろな呼び方や関係がある。ウルも私やミウと関わったから、どんどん呼び方も関係も広がったり多くなったりするだけだから。ウルは賢い子だからいろいろわからなくなっちゃうかもしれないけど、そのたびに私に聞いてくれればいいよ?》
《はいっ!》
念話で私とウルが話していると、ウルが私の方を見たままさらに勢いよく尻尾を振るのを見たおかみさんが何やらまた勘違いしたらしく、ミウに何かコソコソと話している。
「いっ、いやだぁ!本当に違うの!この子……」
「えっ?!本当かい!……なんて酷い……もしうちに立ち寄るのがいたら……ああ、任せておいて!美味しいの見繕ってあげるから!その子、内臓は大丈夫かい?」
「ありがとう!できれば綺麗に血抜きされているのがいいんだけど……大丈夫?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。最近は内臓を煮込んで食べるっていう異国の料理が人気でねぇ。いろんな部位の余ったところを寄せ集めてひき肉にして固めて使うっていう節約料理も流行ってるんだけど、血抜きが完全じゃないと生臭くて…っていう人も増えたのさ。まあ、ペットに与える人は少ないけど、可愛いミウちゃんのお知り合いのワンちゃんだもの!良い物食べさせて、宿屋で出されるような変な物口にしないぐらい満腹にしてやんな!」
いったいどんな説明をしたのか──おかみさんはミウが差し出す銅貨15枚に対してあり得ないほどの量の屑肉を包んでくれる。
一緒に何やら調理法を書いてある紙を何枚か手渡してくれて、ミウにさらに帰り道の途中にある八百屋で買い物をしていくようにと話していた。
《美味しそう!良い匂いです!絶対美味しい肉です!!》
今やウルは私ではなく、植物の葉らしい物を鞣したらしい包みから漂う匂いに耳も身体もピンと張り、最大風速で尻尾を振りまくっている。
「ミウ、何だかウルがとてもお腹が空いてしまったみたいで……」
「あっ!すいません、パトリック賢者様!ありがとう、おばちゃん!また明日来るから!!」
いつの間にやら呼び方が子供の頃に戻ってしまったらしいミウは、そのまま手を振り、いくつもの包みをいつの間にか手にしたマジックバッグに放り込んでいった。
「よしっ…これでお肉の匂いも漏れないし。あとお野菜とか買っていけば、お部屋のキッチンで朝用のスープとかも作れます。ウルの分だけじゃなく、私たちが食べる分のお肉もおまけしてくれたんで!」
ペロリと舌を出して、ミウは安くしてもらっちゃったと笑った。
そして私たちは今だ距離を保ちつつ、尾行を止めない男をだいぶ後ろに従えて八百屋に立ち寄り、肉屋のおかみさんにもらったレシピを見せると、それに対抗してか八百屋のおかみさんがそれ以上のレシピをまた渡してくれて、幾種類もの野菜を購入することになったのは計算外である。

さすがにこの買い物を見れば私たちがウルを置いて食堂にまで足を運ぶとは思われないだろうと思いつつ、私たちはようやく宿へと戻った。


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