62 / 248
賢者、王都で面倒に巻き込まれる。
7
しおりを挟む
べっとりとしたあの笑いの意味を考えたくなくて、まだ宵の口であることを口実に王都内の歓楽街ヘ足を運ぼうとミウに提案すると、一も二もなく賛成してくれた。
当然ウルも一緒である。
受付にいた女性が一瞬目を細めたように思えたが、仮面のように笑みを浮かべて送り出してくれた。
しばらくミウはこの街の観光名所などを教えてくれ、美味しい異国料理を出してくれる食堂へ案内してくれるなど、他愛もない会話を交わした後、そっと声を潜めた。
「そう言えば、さっき扉の内側に貼っていた文字と絵は何ですか?」
「ああ……あれもとても古い魔法陣のひとつです。ノームたちの牧場に雷魔法を付与してもらったでしょう?あれは杭や縄を媒体にして直接魔法の力が流れてますけど、私はどちらかというと魔術を駆使した方が効き目があるんです。あれには『決めた手順で扉に触らずに開錠したら、電撃を走らせる』という文言が書いてあり、逆にちゃんと触れば安全に開きます」
「え?じゃぁ……初めは失敗したとしても、パトリック賢者様が開くやり方を盗み見したら、次は開けられちゃうってことですか?」
「それは大丈夫です。開錠されるまでは何度でも電撃が出ますが、ちゃんと開けた後はもう使えない魔法陣なので。次にまた違う合図を決めないと発動しません。というか、違う合図を決めてしまえばまた効き目が出るという、ちょっと変わったものなんです」
「何ですか、それ……すごい反則技な魔法陣……」
「構築はできなくはないと思うのですが、古代語を知らないとダメだし、最低でも3つ違う手順を考えないと発動しない。しかも掛けた本人が開錠の手順を忘れたとしたら、間違った方法を10回試した後で古代語で『ごめんなさい。掛けた本人です。開けてください』って言わないといけない。あ、『本人』っていうのは今回は私の名前です。家名まで含めた全部の名前」
「こ、古代語で自分の名前……しかも『ごめんなさい』って」
私が扉の前でビリビリっと電撃を受けた後、『ごめんなさい』を繰り返している姿を想像したと笑っているミウを見て、さっきまでの険し気な表情が消えただけでも、あの術を掛けた甲斐があると思う。
「これは今回用。緊急解除の文言も、自分で決められるから、今回は私の本名と職業とランクとを言わないとけないから、ちょっと面倒なんですよねぇ」
「私の息とウルの息も吐きかけたのは?」
「あの部屋に戻れるように……ですね。ミウとウルであれば、私と一緒でなくても手順を踏まずにあの部屋に入れるように」
歩きながら首だけをこちらに向けたミウが、私とその横にぴったりとついているウルの顔を見比べた。
今こうやってあの魔法陣の話をしているように、あの陣の解き方をミウには教えていないのだから当然だろう。
「万が一……私たちがバラバラになってしまった場合、速やかにあの部屋に戻ってすぐ扉を閉めてくれればいい。ミウとウルが一緒であれば同時に、ふたりが離れてしまった場合、ミウもウルも扉に向かって息を吐き欠ければいい。ただし、他の人間とか魔獣の気配があったら扉は開かない……そういう術」
どうして、とは聞かない。
勇者パーティーの一員というのは伊達ではないらしく、ミウは私と同じく気配を隠して後からついてくるモノに気が付いたようだ。
「あ!あそこです!美味しそうでしょう?」
突然ミウは軽く走り出し、ぐるりと身体を反転させた。
ミウの突然の動きに驚いたのか、慌てて後を追おうとしていたソレが私の背に手を伸ばすのを感じて、私はふわりと結界の陣が縫い込まれているローブの中に吸い込んだ。
当然ウルも一緒である。
受付にいた女性が一瞬目を細めたように思えたが、仮面のように笑みを浮かべて送り出してくれた。
しばらくミウはこの街の観光名所などを教えてくれ、美味しい異国料理を出してくれる食堂へ案内してくれるなど、他愛もない会話を交わした後、そっと声を潜めた。
「そう言えば、さっき扉の内側に貼っていた文字と絵は何ですか?」
「ああ……あれもとても古い魔法陣のひとつです。ノームたちの牧場に雷魔法を付与してもらったでしょう?あれは杭や縄を媒体にして直接魔法の力が流れてますけど、私はどちらかというと魔術を駆使した方が効き目があるんです。あれには『決めた手順で扉に触らずに開錠したら、電撃を走らせる』という文言が書いてあり、逆にちゃんと触れば安全に開きます」
「え?じゃぁ……初めは失敗したとしても、パトリック賢者様が開くやり方を盗み見したら、次は開けられちゃうってことですか?」
「それは大丈夫です。開錠されるまでは何度でも電撃が出ますが、ちゃんと開けた後はもう使えない魔法陣なので。次にまた違う合図を決めないと発動しません。というか、違う合図を決めてしまえばまた効き目が出るという、ちょっと変わったものなんです」
「何ですか、それ……すごい反則技な魔法陣……」
「構築はできなくはないと思うのですが、古代語を知らないとダメだし、最低でも3つ違う手順を考えないと発動しない。しかも掛けた本人が開錠の手順を忘れたとしたら、間違った方法を10回試した後で古代語で『ごめんなさい。掛けた本人です。開けてください』って言わないといけない。あ、『本人』っていうのは今回は私の名前です。家名まで含めた全部の名前」
「こ、古代語で自分の名前……しかも『ごめんなさい』って」
私が扉の前でビリビリっと電撃を受けた後、『ごめんなさい』を繰り返している姿を想像したと笑っているミウを見て、さっきまでの険し気な表情が消えただけでも、あの術を掛けた甲斐があると思う。
「これは今回用。緊急解除の文言も、自分で決められるから、今回は私の本名と職業とランクとを言わないとけないから、ちょっと面倒なんですよねぇ」
「私の息とウルの息も吐きかけたのは?」
「あの部屋に戻れるように……ですね。ミウとウルであれば、私と一緒でなくても手順を踏まずにあの部屋に入れるように」
歩きながら首だけをこちらに向けたミウが、私とその横にぴったりとついているウルの顔を見比べた。
今こうやってあの魔法陣の話をしているように、あの陣の解き方をミウには教えていないのだから当然だろう。
「万が一……私たちがバラバラになってしまった場合、速やかにあの部屋に戻ってすぐ扉を閉めてくれればいい。ミウとウルが一緒であれば同時に、ふたりが離れてしまった場合、ミウもウルも扉に向かって息を吐き欠ければいい。ただし、他の人間とか魔獣の気配があったら扉は開かない……そういう術」
どうして、とは聞かない。
勇者パーティーの一員というのは伊達ではないらしく、ミウは私と同じく気配を隠して後からついてくるモノに気が付いたようだ。
「あ!あそこです!美味しそうでしょう?」
突然ミウは軽く走り出し、ぐるりと身体を反転させた。
ミウの突然の動きに驚いたのか、慌てて後を追おうとしていたソレが私の背に手を伸ばすのを感じて、私はふわりと結界の陣が縫い込まれているローブの中に吸い込んだ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる