すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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べっとりとしたあの笑いの意味を考えたくなくて、まだ宵の口であることを口実に王都内の歓楽街ヘ足を運ぼうとミウに提案すると、一も二もなく賛成してくれた。
当然ウルも一緒である。
受付にいた女性が一瞬目を細めたように思えたが、仮面のように笑みを浮かべて送り出してくれた。
しばらくミウはこの街の観光名所などを教えてくれ、美味しい異国料理を出してくれる食堂へ案内してくれるなど、他愛もない会話を交わした後、そっと声を潜めた。
「そう言えば、さっき扉の内側に貼っていた文字と絵は何ですか?」
「ああ……あれもとても古い魔法陣のひとつです。ノームたちの牧場に雷魔法を付与してもらったでしょう?あれは杭や縄を媒体にして直接魔法の力が流れてますけど、私はどちらかというと魔術を駆使した方が効き目があるんです。あれには『決めた手順で扉に触らずに開錠したら、電撃を走らせる』という文言が書いてあり、逆にちゃんと触れば安全に開きます」
「え?じゃぁ……初めは失敗したとしても、パトリック賢者様が開くやり方を盗み見したら、次は開けられちゃうってことですか?」
「それは大丈夫です。開錠されるまでは何度でも電撃が出ますが、ちゃんと開けた後はもう使えない魔法陣なので。次にまた違う合図を決めないと発動しません。というか、違う合図を決めてしまえばまた効き目が出るという、ちょっと変わったものなんです」
「何ですか、それ……すごい反則技な魔法陣……」
「構築はできなくはないと思うのですが、古代語を知らないとダメだし、最低でも3つ違う手順を考えないと発動しない。しかも掛けた本人が開錠の手順を忘れたとしたら、間違った方法を10回試した後で古代語で『ごめんなさい。掛けた本人です。開けてください』って言わないといけない。あ、『本人』っていうのは今回は私の名前です。家名まで含めた全部の名前」
「こ、古代語で自分の名前……しかも『ごめんなさい』って」
私が扉の前でビリビリっと電撃を受けた後、『ごめんなさい』を繰り返している姿を想像したと笑っているミウを見て、さっきまでの険し気な表情が消えただけでも、あの術を掛けた甲斐があると思う。
「これは今回用。緊急解除の文言も、自分で決められるから、今回は私の本名と職業とランクとを言わないとけないから、ちょっと面倒なんですよねぇ」
「私の息とウルの息も吐きかけたのは?」
「あの部屋に戻れるように……ですね。ミウとウルであれば、私と一緒でなくても手順を踏まずにあの部屋に入れるように」
歩きながら首だけをこちらに向けたミウが、私とその横にぴったりとついているウルの顔を見比べた。
今こうやってあの魔法陣の話をしているように、あの陣の解き方をミウには教えていないのだから当然だろう。
「万が一……私たちがバラバラになってしまった場合、速やかにあの部屋に戻ってすぐ扉を閉めてくれればいい。ミウとウルが一緒であれば同時に、ふたりが離れてしまった場合、ミウもウルも扉に向かって息を吐き欠ければいい。ただし、他の人間とか魔獣の気配があったら扉は開かない……そういう術」
どうして、とは聞かない。
勇者パーティーの一員というのは伊達ではないらしく、ミウは私と同じく気配を隠して後からついてくるモノに気が付いたようだ。
「あ!あそこです!美味しそうでしょう?」
突然ミウは軽く走り出し、ぐるりと身体を反転させた。
ミウの突然の動きに驚いたのか、慌てて後を追おうとしていたソレが私の背に手を伸ばすのを感じて、私はふわりと結界の陣が縫い込まれているローブの中に吸い込んだ。

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