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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。
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ミウは冒険者パーティーの中でも最高位に位置する勇者パーティーの一員だが、それを言いふらす気はないらしい。
とりあえず仕事探しに来た冒険者らしいという印象を抱いたのか、宿屋の主人はニチャァッとした笑みを浮かべ、隠しているつもりらしい値踏みの目付きでウルを舐めるように見ながら、声だけは愛想よくウルの留守番預かりを進めてきた。
「うへっ……いえいえ、コホンっ……王宮ギルドに動物を連れて行くのはいかがなものかと……テイマーであれば申請して許可されれば可能とは聞きますが……町中の民間ギルドと違い、警備はかなり厳重ですから……」
「あっ!いえっ!大丈夫です!知り合いが王都に住んでいるので、彼女の家で預かってもらえるんですぅ」
にっこりとミウが笑い返すと、主人は種類の違う笑顔を浮かべて、やはり値踏みの目付きで彼女を見下ろす。
動物の売買だけでなく、女性もその対象なのかもしれない──気を付けてやらねば。
「ほっほぅ……お知り合い……どちらですかな?よろしければ、私どもでお連れしますが……?」
その途中で誤って逃がしてしまいました、すいません、今探索中です云々と言うつもりなのかもしれない。
私はそれすらいらないと言おうとしたけれど、やはりミウが先んじてサラッと自分の実家の名前を出した。
「そうですかぁ?この子を預けてもいいよって言ってくれたの、トリウス伯爵家のご令嬢で。ウフフ~。凄いですねぇ、ご主人、トリウスさんとお知り合いなんですか!」
「えっ、あっ、い、いやっ……そ、それでは……あの、し、失礼……しまっ……」
何故かミウの実家の名前が出た途端、宿屋の主人は慌てて次の席へとそそくさと移動した。
いったいどうしたということなのか、私にはさっぱりわからない。
「んじゃぁ、戻りましょうか?」
「え……うん、ああ……」
《明日、私はミウ様のお家ですか?》
「大丈夫だよ~?明日ももちろん、ちゃんとずっと一緒だから!」
《え!本当ですか!よかったー!!》
よしよしとミウがウルの頭を撫でると、安心したように下がっていた尻尾が上がってくる。
こんなところも魔獣であるウルフ族よりも普通の犬と変わらないように見え、ますます誤解されてしまうかもしれない。
いや、犬族であればただの動物も魔獣も関係なく、同じような性質や行動をするのか──少しばかり私はウルたち一族について「知りたい」と思う知識欲が湧く。
──が。
スッとミウの気配が剣呑なものになり、私とウルは揃ってそちらへと意識を向けると、ちょうどチェリーモンキーを連れた二人組のテーブルに近付くところだった。
「ルルカッ」
何かそんなような言葉聞こえたと思ったら、バッとチェリーモンキーがミウを振り返り、首につけられた拘束魔具が反応するまでの数秒間、確かにこちらに向かって手を伸ばした。
とりあえず仕事探しに来た冒険者らしいという印象を抱いたのか、宿屋の主人はニチャァッとした笑みを浮かべ、隠しているつもりらしい値踏みの目付きでウルを舐めるように見ながら、声だけは愛想よくウルの留守番預かりを進めてきた。
「うへっ……いえいえ、コホンっ……王宮ギルドに動物を連れて行くのはいかがなものかと……テイマーであれば申請して許可されれば可能とは聞きますが……町中の民間ギルドと違い、警備はかなり厳重ですから……」
「あっ!いえっ!大丈夫です!知り合いが王都に住んでいるので、彼女の家で預かってもらえるんですぅ」
にっこりとミウが笑い返すと、主人は種類の違う笑顔を浮かべて、やはり値踏みの目付きで彼女を見下ろす。
動物の売買だけでなく、女性もその対象なのかもしれない──気を付けてやらねば。
「ほっほぅ……お知り合い……どちらですかな?よろしければ、私どもでお連れしますが……?」
その途中で誤って逃がしてしまいました、すいません、今探索中です云々と言うつもりなのかもしれない。
私はそれすらいらないと言おうとしたけれど、やはりミウが先んじてサラッと自分の実家の名前を出した。
「そうですかぁ?この子を預けてもいいよって言ってくれたの、トリウス伯爵家のご令嬢で。ウフフ~。凄いですねぇ、ご主人、トリウスさんとお知り合いなんですか!」
「えっ、あっ、い、いやっ……そ、それでは……あの、し、失礼……しまっ……」
何故かミウの実家の名前が出た途端、宿屋の主人は慌てて次の席へとそそくさと移動した。
いったいどうしたということなのか、私にはさっぱりわからない。
「んじゃぁ、戻りましょうか?」
「え……うん、ああ……」
《明日、私はミウ様のお家ですか?》
「大丈夫だよ~?明日ももちろん、ちゃんとずっと一緒だから!」
《え!本当ですか!よかったー!!》
よしよしとミウがウルの頭を撫でると、安心したように下がっていた尻尾が上がってくる。
こんなところも魔獣であるウルフ族よりも普通の犬と変わらないように見え、ますます誤解されてしまうかもしれない。
いや、犬族であればただの動物も魔獣も関係なく、同じような性質や行動をするのか──少しばかり私はウルたち一族について「知りたい」と思う知識欲が湧く。
──が。
スッとミウの気配が剣呑なものになり、私とウルは揃ってそちらへと意識を向けると、ちょうどチェリーモンキーを連れた二人組のテーブルに近付くところだった。
「ルルカッ」
何かそんなような言葉聞こえたと思ったら、バッとチェリーモンキーがミウを振り返り、首につけられた拘束魔具が反応するまでの数秒間、確かにこちらに向かって手を伸ばした。
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