すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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王都に詳しいミウのおかげで、『ペット同伴可』という宿に腰を落ち着けることができた。
しかもいろいろと施設が整っており、鷹などの猛禽類などを止めて置ける渡り木のある棟や、猫や猿など活発な動物を連れていても室内で運動させられる部屋のある棟、馬などの大型の動物も寝かせられるコテージがあるなど、いくつもの建物がまとまっている便利な宿である。
「はぁ~……さすが王都だ。何とも様々な用途に応えようとすると、何でも商売になるんだねぇ」
《こうしてパトご主人と一緒に寝られるなんて!カヤシュたちと一緒に寝るのも楽しかったですけど、パトご主人と一緒も嬉しいです!》
パタパタとウルが尻尾を振りながらあちこちの匂いを嗅いでいる。
《凄いですね!この部屋には他の動物の匂いがしません!落ち着きます!》
「へぇ……消臭魔法も完璧なんだねぇ。ウルが落ち着けるなら嬉しいよ」
実は宿の方には頑丈な檻のある部屋も勧められたのだが、ウルはとても大人しい子だと言うとマジマジと見た後で、小型から中型犬用でも大丈夫だろうとこの部屋になった。
「ちょっとウルフ犬の血が入っているんですかねぇ?精悍そうですけど、確かに賢くて大人しい目つきをしていますね……親御さんはどんな犬種ですか?血統をお調べすることもできますが?」
「いえ、その……知人に譲ってもらったもので。いつの間にかお腹が大きくなっていたということで、親がわからないらしいんです」
「へぇ……母親の方はどんな犬種ですか?かなり大きめで賢い犬種だと……」
「あ!いえいえ、母親も雑種だそうで、よくわからないらしいんです!」
「そうですかぁ……いやぁ……本当に賢そうで……もしまだ避妊手術していないのなら、こちらで繁殖相手をお探しすることも可能ですが?!」
「いえっ!この子を連れて明日、王宮に向かうので!きっとあちらでいい子を紹介してもらえるかと!」
「……そ、そうですかぁ……」
やたらとウルの子供を見てみたいアピールをされて私は対応に困ってしまったが、さすがにミウが割って入り、何とか場を収めてくれて安心した。

「それにしても、何だってあんなにウルにお嫁さんを紹介してくれようとしたんだろうねぇ?」
「……たぶん、来年のドッグショーかなんかに出品したかったのかもしれませんね?」
「ドッグショー?」
「ええ、犬の品評会です。いい毛並みの犬を出すことで繁殖家として名を挙げれば、後々の上客を見込めますから。ウルを見てください。小型ウルフはとても毛並みはいいけれど、しょせん魔物です。普通の人は手懐けられません。でもウルフ並みの美しい毛並みを持つ混血犬なんて……珍しくて、絶対注目の的ですよ!」
「そういうもの……?」
《ウル、見世物ですか?》
「そんなことさせない!絶対させない!ウルはパトリック賢者様の大切なウルだもの!手を出そうとする輩がいたら、この私が串刺しの刑にしてやるからね!フフフ……」
ミウが何やら物騒な顔になったが、確かにこの宿にウルだけを置いておくのはやめた方がいいかもしれない──いつまでここにいるかわからないが、とりあえず一週間分の宿賃を払った時の宿屋の主の諦めきれなさそうな表情が気になった。

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