すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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そこからはほぼ問題もなく、私とミウとウルは王都へと足を踏み入れた。
巣立ちを強制されていたとはいえ、半年間も眠って極限まで痩せていたウルは毛並みから小型ウルフというよりも少し大きめの犬と思われたのか、王都を頑丈に囲う城壁の検問所も無事に通過することができたのである。
「いや、本当……こうやってウルをテイムできたのも、門を無事に通過できたのも、ミウが一緒にいてくれたおかげですよ……」
「そんな、そんな!パトリック賢者様の持つ冒険者カードが凄すぎるんですよ!一目見て、門兵長が慌ててお城まで早馬出したぐらいですもん。お迎えの兵士さん、返してよかったんですかぁ?」
「いや、旅の汚れも落とさないまま拝謁なんて……君らの定宿はないの?……というか、ミウこそ、ご両親にご挨拶とかは?」
「いや~……どうせ帰ってもいるのは兄と妹です。『出来損ない』って私のことをバカにされるだけならいいですけど」
「いや、良くないけど!?」
「……パトリック賢者様との関係を邪推されて、アホな妹のアホさ加減をご披露するのは私の方が耐えられません……」
関係もなにも──とは思うが、確かに可愛らしいミウに見知らぬ男がくっついてくるのを見れば、何らかの誤解があるかもしれない。
「でも……アホさ加減って……」
「腐っても伯爵家ですけど……妹にはまだ婚約者がいないんです。私もですけど……私は『勇者パーティー』に加わっているから、ある意味免除されているようなものなんですけど……魔術協会との繋がりがあると嬉しいけど、高魔力持ちの妹は敬遠されがちみたいで」
確かにわからないでもない。
それなりの魔力持ちであれば生活面で多少楽になるかもしれないが、高魔力持ちで貴族位持ちのお嬢様が無力な旦那様に媚びへつらうとは思えないし、ましてや自分たちよりミウの方が下だと見下すような兄妹から気持ちのいい対応をもらえるとは思えなかった。
「パトリック賢者様がどういった属性の魔力を持っていらっしゃるかはわかりませんが、こうやってウルをテイムしたり、ある程度魔術を行使できたりする人間は貴重ですから……絶対うちの妹がすり寄って、パトリック賢者様が嫌な目に遭うと思われるのです」
「ああ……確かに私もそういう関係になることは遠慮したいかな……」
いい歳をしてと言われるかもしれないが、さすがにミウよりも年下の女の子ということは、私にとっては赤ん坊と言わないまでも興味の範疇外である。
では自分と同じぐらいの年齢であればいいのかと言えば──正直に言ってしまえば、恋愛も婚姻も興味がないのだから答えようがない。
とりあえず今日は宿を決め、身支度をしてからギルドを通して王宮へ拝謁のお伺いを立てようと決めた。


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