すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、寄り道をする。

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けっきょく私たちはウル以外の小型ウルフ族はおろか、いかなる大きさの魔獣にも魔物にも出会うことはなく、安全に森を抜けてしまった。
「うぅ~ん……困ったなぁ……私たちでは『この森に小型ウルフの大量繁殖も群れも見つからなかった』と報告しても、信じてもらえないですよねぇ……」
「そうですねぇ……せめて私以外にも誰か勇者パーティーの人が一緒にいてくれたらよかったんですけど……みんな散らばっちゃったもんなぁ~……」
《ミウさんには他にもお友達がいるんですか?》
私とミウがそれぞれ思案顔で今抜けた森を振り返っていると、パタパタと尻尾を振りながらウルが楽しそうに尋ねる。
「うん。そう。私よりすっごく強くてすっごく優しい人と、すっごく大きい人と、すっごく綺麗な人!きっとウルのことも可愛がってくれるよ!」
「そ…ういえば……」
勇者パーティーとは、冒険者たちが組むパーティーの中でも魔王を始めとした魔族や魔物、魔獣を専門に討伐する役割を担っているけれど──テイムした私という存在がいても、ウルはちゃんと保護してもらえるのかと心配になった。
「あ、はい!大丈夫ですよ。たいていテイマーがテイムした魔物とかは主に逆らえないので、討伐対象にはなりません。まあ…パトリック賢者様は正式なテイマーではないですけど、主従関係が結ばれていることはすぐに証明できると思いますし、何よりこうやって念話で意思疎通が完璧なんで。たぶん他のメンバーたちともパーティーに入ったら同じ現象が起きるんじゃないかって、私は思ってますけど……あっ!」
最後はちょっと自信がなさそうだったけれど、ミウが一応は保証してくれる。
「そう!これ!さっきロダムス村を出る時に、キッチャムたちからもらったんです!」
そう言って取り出したのは、五本の綺麗なミスリル銀のブレスレットだった。
しかも何か魔石がひとつずつついているのだが──
「キッチャムたちにせがまれて、勇者パーティーの皆の話をしたんです。そしたらそれぞれにノームの加護がありますように…って、作ってくれたんです。今は渡せないけど、これをこう繋げて……」
そう言いながらミウは一本ずつ留め具の端と端を繋げて、一つの大きな縄状にした。
「これを一応テイムモンスターの印にした方がいいです。ウルがいい子なのは私もパトリック賢者様もわかっているけど、他の人にはわかりませんから!こうしておかないと、勝手に連れて行ってしまう人もいたりしますから」
「なるほど……」
確かテイムした魔物や魔獣には服従魔具が嵌められてしまうと聞いたことはあったけれど、どんな無粋な魔具よりもこのネックレスの方が断然かっこいい。
実際ウルの白い毛皮に巻きつけたネックレスは、輝くミスリル銀とひとりずつに合わせたらしい五色の魔石がキラキラと揺れ光ってとても似合っている。
「はぅっ……パパパパパトリック賢者様ぁ……来年、私がキッチャムと『友達の契約』を結びに行ったら、これと同じ物を作ってもらえないか、聞いてみていいと思いますか?!」
ミウがウルの首にかじりつきながら尋ねてきたけれど、変な物を付けられるよりも断然いいのはもちろんで、絶対私からもお願いしようと思う。

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