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賢者、寄り道をする。
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いやそれはノームだけでなく、ウルもべったりと地面に伏せて、あごまでしっかりと地面につけて目をなぜか前足で覆っている。
それがウルなりの正座伏せなのかもしれないと思うと、思わず笑みが零れてしまった。
その中でもひとりだけ、頭を上げているミウも辺りを見回してニコニコと笑っている。
「……かっわいぃ………」
確かに可愛い。
女の子が小人のような人形で遊ぶのがわかる気がするほどだ──私は男だけど。
こんな可愛らしい生き物たちが一斉にひれ伏すというのは、何となく自分が物凄く偉くなった気分になるものだと、生まれて初めて気づいた。
「いやいや!それよりも」
陶酔感に飲まれ、危うくこの村まで来た目的まで忘れてしまうところだったが、私は正気を取り戻そうと頭を振った。
「……パトリックは、素晴らしい。ウルの友に、ふさわしい」
ハァ…と溜息をつき、村長は何か諦めたような顔で姿勢を正す。
「わかった。何でも尋ねるがいい。ティファムはロダムスの長として、心から答えよう!」
どういうことかと思ったが、たちまち先ほどまでの浮ついた気分や踊りたくなった衝動が収まり、スゥッと気持ちが落ち着いた。
「……ノームの惑わし」
「ほう!パトリックはすごいな!さすがティファムとロダムスの村の友!聞け!ロダムスの村の名誉にかけ、その答えを探す!」
「……では、ウルの家族、もしくはほかの小型ウルフ族を知らないかな?私たちは彼らが今どれくらいこの森にいるかを知りにきたんだ」
「それだけか?」
「いや………もし、数が多過ぎたら、ある程度討伐するつもりだ。人間がこの森の側を通るためだけでなく、あなたたちノームが安心して狩りをできるように」
そういった時、私はウルの顔を見ることができなかった。
だが、ティファムから返ってきた言葉に、逆に私とミウは顔を合わせ、さらにウルを見つめた。
「……いなくなった。突然。ロダムスの友しかいない。何故か。わからない。雪が積もった。ウルも見えなくなった。探した。本当は危険。ウルは安全だが、ウルの親はノームを喰らう。だがウル以外の匂いがなくなった。ウルだけはいた。匂いがあった。だが探せなかった。パトリックとミウが連れてきてくれた。それだけだ」
小型ウルフ族が、この森から消えた。
理由はわからず、だが秋の盛りのある日ウルは眠りにつき、春の盛りに目を覚まして仲間を探していたら私たちに出会い──ここに至る、と。
ノームたちとウルの言うことは違っておらず、確かに森からは魔獣の気配はない。
であれば普通は魔獣討伐の依頼自体取り消されるものだと思うのだが、何かの理由でそれが為されていないのだろう。
「ひょっとして『消えた』という証拠を持っていけないから、依頼が取り消せないのかもしれないんじゃないですか?」
「ああ、なるほど……」
魔獣や魔物を退治したという証拠に討伐確認部位を持っていくという方法で証拠立てできるが、いないモノを『いなくなった』と証明することは難しい。
単に巣や群れの居場所を変えて潜んでいる可能性もあるからだ。
しかし、だからと言って彼らがこのままいるかいないかわからない魔獣の存在に怯えて、狩りもままならないとなるのは気の毒だろう。
そこで私はひとつの解決策を持ち出した。
「ノームたちはどれくらいの大きさの獲物を狩るんだい?」
まあ体の大きさからして、猫より小さい者だろうと予想はつくが──
「うむ!だいたいは野ネズミ、ネズミの大きいの!ウサギの小さいの!だな!」
「ではわざわざ狩りに行っても、いないこともある?」
「狩りに行く。次に行く。巣を捨てる。だから新しい巣を見つける」
「……なるほど。では、まずは君たちが食糧とする動物たちの巣を見つけて捕らえて……」
「捕らえて?倒すのじゃないのか?」
「う~ん……倒すとすぐそこで肉が手に入るけど、また探しに行かなきゃいけないだろう?君たちだけならその方がいいんだろうけど、どうせなら私たちやウルがいるんだから、生きたまま捕まえてきて、この村に牧場を作ったらどうかな~って思うんだ」
「牧場?人間が自分たちの大きな動物を飼っているのと同じ?あれは肉を取るためか?」
「うん。肉を取ったり皮を取ったり乳も採ったりするね。牧場では子供を育てて、肉がずっと食べられるようにするんだ。野ネズミはどうだかわからないが、ウサギだったら毛皮も得られる。ティファムだけになら、きっと精霊術で私の知識を一部伝授することは可能だよね?」
「できる!パトリックは物知りだ!ティファムも物知りになる!牧場を作る!ロダムスの村はいつまでも栄える!」
「栄えるー!」
またもやワァッとノームたちが飛び跳ね、楽しい気分が沸き上がる──きっとこれが『ノームと繋がる』という効果のひとつなのだろう。
ミウはもう受け入れて一緒になって飛び跳ね踊り、楽しそうに笑っていた。
それがウルなりの正座伏せなのかもしれないと思うと、思わず笑みが零れてしまった。
その中でもひとりだけ、頭を上げているミウも辺りを見回してニコニコと笑っている。
「……かっわいぃ………」
確かに可愛い。
女の子が小人のような人形で遊ぶのがわかる気がするほどだ──私は男だけど。
こんな可愛らしい生き物たちが一斉にひれ伏すというのは、何となく自分が物凄く偉くなった気分になるものだと、生まれて初めて気づいた。
「いやいや!それよりも」
陶酔感に飲まれ、危うくこの村まで来た目的まで忘れてしまうところだったが、私は正気を取り戻そうと頭を振った。
「……パトリックは、素晴らしい。ウルの友に、ふさわしい」
ハァ…と溜息をつき、村長は何か諦めたような顔で姿勢を正す。
「わかった。何でも尋ねるがいい。ティファムはロダムスの長として、心から答えよう!」
どういうことかと思ったが、たちまち先ほどまでの浮ついた気分や踊りたくなった衝動が収まり、スゥッと気持ちが落ち着いた。
「……ノームの惑わし」
「ほう!パトリックはすごいな!さすがティファムとロダムスの村の友!聞け!ロダムスの村の名誉にかけ、その答えを探す!」
「……では、ウルの家族、もしくはほかの小型ウルフ族を知らないかな?私たちは彼らが今どれくらいこの森にいるかを知りにきたんだ」
「それだけか?」
「いや………もし、数が多過ぎたら、ある程度討伐するつもりだ。人間がこの森の側を通るためだけでなく、あなたたちノームが安心して狩りをできるように」
そういった時、私はウルの顔を見ることができなかった。
だが、ティファムから返ってきた言葉に、逆に私とミウは顔を合わせ、さらにウルを見つめた。
「……いなくなった。突然。ロダムスの友しかいない。何故か。わからない。雪が積もった。ウルも見えなくなった。探した。本当は危険。ウルは安全だが、ウルの親はノームを喰らう。だがウル以外の匂いがなくなった。ウルだけはいた。匂いがあった。だが探せなかった。パトリックとミウが連れてきてくれた。それだけだ」
小型ウルフ族が、この森から消えた。
理由はわからず、だが秋の盛りのある日ウルは眠りにつき、春の盛りに目を覚まして仲間を探していたら私たちに出会い──ここに至る、と。
ノームたちとウルの言うことは違っておらず、確かに森からは魔獣の気配はない。
であれば普通は魔獣討伐の依頼自体取り消されるものだと思うのだが、何かの理由でそれが為されていないのだろう。
「ひょっとして『消えた』という証拠を持っていけないから、依頼が取り消せないのかもしれないんじゃないですか?」
「ああ、なるほど……」
魔獣や魔物を退治したという証拠に討伐確認部位を持っていくという方法で証拠立てできるが、いないモノを『いなくなった』と証明することは難しい。
単に巣や群れの居場所を変えて潜んでいる可能性もあるからだ。
しかし、だからと言って彼らがこのままいるかいないかわからない魔獣の存在に怯えて、狩りもままならないとなるのは気の毒だろう。
そこで私はひとつの解決策を持ち出した。
「ノームたちはどれくらいの大きさの獲物を狩るんだい?」
まあ体の大きさからして、猫より小さい者だろうと予想はつくが──
「うむ!だいたいは野ネズミ、ネズミの大きいの!ウサギの小さいの!だな!」
「ではわざわざ狩りに行っても、いないこともある?」
「狩りに行く。次に行く。巣を捨てる。だから新しい巣を見つける」
「……なるほど。では、まずは君たちが食糧とする動物たちの巣を見つけて捕らえて……」
「捕らえて?倒すのじゃないのか?」
「う~ん……倒すとすぐそこで肉が手に入るけど、また探しに行かなきゃいけないだろう?君たちだけならその方がいいんだろうけど、どうせなら私たちやウルがいるんだから、生きたまま捕まえてきて、この村に牧場を作ったらどうかな~って思うんだ」
「牧場?人間が自分たちの大きな動物を飼っているのと同じ?あれは肉を取るためか?」
「うん。肉を取ったり皮を取ったり乳も採ったりするね。牧場では子供を育てて、肉がずっと食べられるようにするんだ。野ネズミはどうだかわからないが、ウサギだったら毛皮も得られる。ティファムだけになら、きっと精霊術で私の知識を一部伝授することは可能だよね?」
「できる!パトリックは物知りだ!ティファムも物知りになる!牧場を作る!ロダムスの村はいつまでも栄える!」
「栄えるー!」
またもやワァッとノームたちが飛び跳ね、楽しい気分が沸き上がる──きっとこれが『ノームと繋がる』という効果のひとつなのだろう。
ミウはもう受け入れて一緒になって飛び跳ね踊り、楽しそうに笑っていた。
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