すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都に旅立つ。

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王都へ向かう道はいくつもあるが、一番の近道はやはりノームの縄張りのある森である。
距離的にはあまり変わらない村を通る道もあるが、私の性格的にまた誰かに関わって人助けを始めないとも限らない。
ただでさえザイの町で3ヶ月も時間を使い、リアムたち孤児が悪意ある大人たちに搾取され続ける悪循環を断ち、不幸な子供たちをすべていなくすることは現実的ではないが、世話をしたり仕事を与えることができる道をつくるという理由で、勇者パーティーのメンバーとの顔合わせを待ってもらっているのだ。
「時間をかけられて、1週間ぐらいですねぇ」
「そうですね。私たちの持っている食糧からしても、それぐらいが妥当でしょう」
ビュンビュンと弦の張り具合を確認しながらミウが大体の目安を出すのを、私も肯定する。
ウルフの群れがどれくらいかわからないが、およそ4~5体で行動する魔物だから、1週間で20体ぐらいを間引ければ、少しは安全が増すはずだった。
討伐部位に関しては耳を切り取ることとし、画像記録をどうするのかとか、ノームの隠れ里へ獲物がそこにあることをどうやって知らせるかなどの問題も抱えつつ、私たちはどんどん森の奥へと進む。


「……いませんねぇ?」
ひょっとしたらザイ以外の町か村から冒険者があの依頼を受けて、もう解決してしまったのかもしれない。
しかしザイの町のあちこちに足を運びながら、冒険ギルドに寝泊まりしていた私は常にギルドの待ち合い室を利用して出入りしていたが、あの討伐依頼の紙が貼りっぱなしだったのを覚えている。
しかも依頼発行日自体も最初に見た時はほとんど3ヶ月前で──つまりは半年間も放置されていたことになるのだ。
「半年と言えば、繁殖期や成長して新たな群れができて当たり前ぐらいの期間……しかもザイにだけ討伐完了の連絡がないとは考えられないから、どこかに潜んでいるにしても、気配すらないというのは……」
「ですよねぇ?繁殖期であればまあ子供を安全な場所に隠して、あまり人間の目に付かないように狩りをするっていうのはわかりますけど……でも討伐依頼が出てたってことは、成体が多かったはず……ウルフ族の繁殖期は2年に1度だったはずだから……うぅ~ん???」
計算が苦手なのか、ミウは首を捻っている。
しかしそういうことなら今は隠れ住んでいるから、私たちにはわからないのか──だが『討伐され、個体数を減らした』という情報がないのもおかしい。

そう思っていると、ようやくウルフの成体が現れた。
見るも憐れなほどにガリガリに痩せて。

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