すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都に旅立つ。

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そこは適度にひらけ、身を隠す大木はないけれど細い若木がいい感じに何本か生えている。
せせらぎの音が微かに聞こえ、あまり遠くないところに川も流れているらしい。
「ねっ?ここなら誰かが潜むのも難しいし、池じゃなくて川だから毒を流される心配も少ないし」
「確かに……」

しかしここで女の子ひとりで寝泊まりするのは危険ではなかったのだろうか?

そんな私の疑問がつい顔に浮かんでしまったのか、ミウがニコッと笑って手をかざして見せる。
「……え?あれ?確かミウは魔力がないって……?」
「えっへっへ~♪」
歌うように笑うミウからは、確かに魔力が全身に巡って手のひらに集まるのが見えた。
「何か私の魔力回路は、誰か・・によって閉じられていたらしいんです。誰とは言いません……ええ、自分の身内なんて、ね?」
「身内……」
「『自分より魔力が多い子がいたら、自分の立場が不利になる』って思っちゃった人たちです。アホですよねぇ~……父も母も確かにすごい魔力持ちの魔術師で『魔術最上主義者』でしたから、肉親同士で寵愛を競うなんて未来もあったかもしれませんけど。私はたぶん、どんな状態でもいち抜けしていたと思うのに」
「まずはお兄さん……それから妹?」
「ですね~。最初は兄だけで隠せていたみたいですけど、それでも漏れ出してきた時に妹が『そんなはずはない!お姉ちゃんは出来損ないなんだから!』って慌てて強力すぎる呪術を掛けたみたいです。おかげで3日間寝込んで、けっこう魔力が増したのを喜んでいましたけど。で、私は12…13年間?魔力は身体の中に閉じ込められたまま」
あっけらかんと『話さない』と言ったミウへの加害者を明らかにし、何でもなかったことのように空を見上げて綺麗な魔力の玉を打ち上げる。
「おかげで強弓を引く力を得ることができて、しかも魔力が込められたこの相棒のおかげで勝手に魔力回路開放も叶いました」
ポンポンと自分の弓を叩くと、またニコッと笑う。
「そのこと……君のご両親は?」
「実は父は知っています。この子を引いた時に分かったらしくて。過去読みのできる人なので、私の魔力と一緒に記憶も封印されていたことも、それをやったのが誰かも……そして、母がそれを知ったらちょっと暴走するかもしれないと、家を離れるまでまやかしの封印をつけたペンダントをくれたんです」
「……愛されていないわけでは、なかったんだね」
「はい!ちゃんと愛してくれていました!ただ研究優先の人たちだったから、魔力がないと思い込んでいた私に対して時間と興味を持てなかっただけで……単に自分勝手な人たちだっただけなんです、私と同じように」
そういうミウも魔力持ちの両親に対して、自分勝手な期待と絶望と愛情を持っていたからおあいこだと私に笑いかけるが、子供が親に愛情を求めるのは当然ではないだろうか。
「まぁ……そうは言っても、兄も妹も、たぶん自分たちが思うほど両親の愛を得られていない気がするんですよねぇ~?何でだろう……」
「何で……だろうね?」
魔力があれば、魔術師の両親に興味を向けられるものではないのか?
魔力至上主義ならば兄妹に優越をつけて当然だと思うが、ミウの記憶では兄や妹が特別扱いされていたこともないらしく、嫡男という生まれと魔力があることに対する才能への期待、妹の美貌と魔力があることによる高位貴族へ嫁ぐ可能性への期待があったが、だからといって魔力がないと思われたミウを閉じ込めたりどこかに捨ててしまったりしたわけでもない。
却って戦闘に対して能力があると知ると、その道を選んでも阻止せずに兄を制してミウ用の武器を与えたということから、やはりそれなりに愛情を持っていたのだろう。
「いつかは聞いてみたいですけどね。お兄ちゃんに弓を向けたら素直に話してくれるかなぁ」
「……うん。今のミウなら、武器がなくてもイケる気がするよ」

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