すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都に旅立つ。

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道筋は整い、これ以上私が手を出すのは越権というか、私物化と言われても仕方のないレベルまで、孤児たちの養育から就職機関は計画上完了した。
実行するのはザイの町に住み続けるティグリスやリアムたちであり、金銭的支援や監督役を担うのは後ろ盾となることを約束してくれた貴族たちである。
最初は町の権力者たちが『孤児院経営に関しての利益を得るのは自分たちの権利である』と主張したのだが、『権利ではなく責任。全うしてこなかった者に口出しする資格なし』と一蹴された。
孤児救済と経済水準の向上は国王たちへのいいアピールとなるはずで、苦労や努力は町民たちに負わせてその旨い汁だけを腹いっぱいに飲むつもりだった町長たちは、かなり前から孤児たちを犯罪の道に引きずり込む悪党どもを放置した責任を追及されることを知らない。
「とはいえ……」
「ああ……責任逃れするつもりはひとつもない!…という決意を俺だけが固めていてもな……」
潔く自分たちの非を認めて孤児たちに頭を下げられる大人は少なく、逆に孤児となった本人や顔も知らない捨てた親たちを非難して、自分たちは悪くないと声高に叫ぶ者は多い。
「それを貴族様の力でねじ伏せて、『全員一斉責任』と言ってもいいんだがよ……」
「それではまた陰で同じことを繰り返すだろうね」
例えばこの冒険者ギルドでも、リアムたち孤児を痛めつけていた事実を罰せられることに戦々恐々とはしても、やったことを正当化している者が複数いる。
特に逃げるように去った自衛団の面々がそうだった。
「自分たちの方が真っ当に生きてきたんだから、真っ当に生れ育たなかった奴らが悪い、虐げられて当然……そんなわけあるかっ!!そんな理由で自分の妹や弟より年下の子供に手ぇ出す言い訳になるかよ?!しかもそいつらが面白半分で孕ませて、自分は知らぬ存ぜぬで捨てて同じ境遇の赤ん坊を孤児院に預けざるを得ないとかよ……一皮どころか、下手すりゃ芯まで腐る寸前だったんだぜ?!」
ギリッ…と奥歯を噛みしめ、ティグリスはいくつ目かのテーブルを叩き壊してしまった。
「……全部、ちょん切っちゃえばいいのに」
「……リアム!!」
ギラリと目を輝かせ、ティグリスはぽつりと呟く声に反応する。
「なっ、何だよっ、急に……」
「よしっ!まずはお前にちょっかい出した奴のモノをちょん切ろう!それはいい!!いいアイデアだ!!」
「いいわけあるかぁっ!!」
バコンッと思いっきり手刀をティグリスの頭に振り下ろし、私は本気で『ちょん切りに』行こうとする暴行犯手前の男を引き留めた。

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