すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都に旅立つ。

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とにかくその話を受けるかどうかは、ミウと一緒に王都に戻ってからということに落ち着いた。
私としては、実はもう心は決まっている──何度も魔王と出会っているが、実は『勇者パーティー』として正式なメンバーになったことはない。
斥候として先に魔王がいるかと索敵する役目を担ったことはあるが、その時だって実力もランクも足りないという単に雇われ者だった。
いつかあいつは言っていたっけ──

『あいつら、面倒なんだ。自分たちが必ず『魔王』を斃すとかって、戦闘力だの生命力だの…種族としての違いすら弁えず、俺に挑んでくるんだ』
『何だ……『勇者パーティー』にいるかと思ったら、こんなところにいたのか。まぁ……お前が俺と渡り合えるようになるまで、成長するのを待つことはできるからな!ああ、楽しみだ……』

今の私は、彼のその期待に応えられるほどの実力を身につけただろうか?
私の方がもう我慢できないのかもしれない──待つことに。


とにかく他のメンバーも向かった先でフリーの魔術師や錬金術師を連れ帰ってくるかもしれないので、決定するのは自分たちが戻ってからにしてほしい…という手紙を郵便馬車に託して、私とミウは冒険者ギルドに泊まり込み、この町の孤児たちに対する生活環境から就職まで健全に経営されることをしっかりと確認する仕事に戻った。
もちろん貴族的な後ろ盾としてクラランス家を率先とし、彼らが見込んだ貴族たちに声を掛けて援助してもらえることとなり、教育機関の確立が急速に進んでいる。
各職業ギルドももちろん孤児たちの就職支援を行うことを約束させられたが、それはリアムが持ち込んだ記録用宝珠が役に立った。

冒険者ギルドでギルドマスターと客人が並んで座り、その向かい側に座る若い男。
どうやって技術を覚えたのかという問いに、若い男が答える
「そこではもっと昔の価値で鉄1片を部品10個の価格にして、出来上がりを買い取る形にしてくれた。鉄10片で銅貨1枚……それを週ごとに渡してくれるんだけど、そのまま孤児院の預け所に預けておいてもいいし、銅貨1枚以上で引き出して使ってもいい……余った鉄片は下せなくて積み立てられて、孤児院から出る時にまとめて渡されたんだ」
「比較的まともな孤児院だが……買い取り価格がひでぇな」
「うん……俺も最初はわからなかった。でもちょっとした修理も教えてもらっていたから、孤児院出てから紹介された職人の家に住み込んで、給金を月に銀貨3枚もらって……それから自分の工房を出した」
「でもやっぱり適正価格がわからないから……」
「それでリアムが見た日、武器ギルドの窓に貼りついていたのか」
「驚いたよ……銀貨10枚だの、20枚だの……俺が孤児院出る時にもらった銀貨25枚ですら鉄の大槌1個直したら吹っ飛んじまう金額だ」
「そりゃたぶん金の無ぇ冒険者向けに、壊れにくくなる魔術を組み込むのも入れての金額だと思うがな。お前は今どこに住んでるんだっけ?」
「ぼろいアパートの1階部分を買い取って……つっても、そこの購入金額が金20枚って言われて。弟子入りしていた時にも貯めてた金5枚払って、残りはそこに構えた工房で修理請け負いながら払ってってる」
ボリボリとティグリスは頭を掻きながらそのアパートの場所を聞き、町の地図を広げた。
「ふぅん……場所は悪くねぇ。個人工房より外れているから、まあ……金額を考えたら嫌がらせされそうなものだが、目こぼししてもらえる位置だが……それでも銅貨15枚は安すぎらぁ」
「前にもっと……魔法付与無しで銀貨2枚の修理代を持ちかけたら、『親無しのくせに銀貨なんかもらえると思ってるのか?こんな良いもん触れて、銅貨20枚でも高いぜ!』って言われて……だから、俺んとこは何直しても魔法付与はできない代わりに銅貨15枚で請け負ってる」

その一連の流れがもちろん画像と共に、武器ギルドの待ち合い兼展示場となっているフロント部分で、仕事を請け負うだけでなく、顧客がいるその場にハッキリと響いたのだ。
しかもその後のティグリスが面会用に用意した血判付きの名刺を渡されたことも記録されており、武器ギルドのマスターに繋ぐことを拒んだ受付嬢と、その命令を出した上司は非難の目に晒されることになったのである。

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