すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、王都に旅立つ。

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ミウという少女は王都生まれのトリウス伯爵令嬢ということだが、両親が魔術協会に所属する魔術師だと、自嘲気味に笑った。
「両親は立派な魔術師なんですけど、私は魔術なんかちっとも才能が無くて。兄と妹がいるんですけど、ふたりとも魔力持ちで魔術協会でやっぱり魔術師だから、ちょっと実家には居づらくて……でも、家の警護をする兵が訓練の時に弓を貸してくれたんです」
「それで弓使いに?」
「最初は内緒にしてたんですけど、さすがにバレてしまって。ついでに兄妹に邪険にされてるのも両親が知っちゃって~」
ヘラッと笑ったが、家族の誰とも共通しない才能を持つというのは、幼い少女には辛いものだったろう──しかも両親だけでなく、きょうだいもいるのだとすればなおさらである。
「でも『魔術が使えなくても、トリウス家の子供であることは間違いない』って兄たちを制して、子供用の弓を与えてくれたんです。最初はバッキバキに折ってしまうものだから、また兄に『無駄遣い』って嫌味を言われましたけど……家にあった魔力付与された強弓を引いてみせたら、途端に大人しくなっちゃいました!」

いったいどれくらい強い弓だったのだろう──

私はあえて質問することを差し控えたが、かなり得意げな顔を見るに、おそらく力自慢の男など目でもなかったに違いない。
そう思って黙っていると、ティグリスが推測を確定してくれた。
「おお!俺もずいぶん前に見たけど、凄かったぜェ?あれは……お前さんがまだ10歳だったか?伯爵に連れられてこの町近くにあるベッカ公爵様の別荘に来てな……ベッカ公爵はこの国でもごうの者だが、あの方しか引けない弓を引き絞った途端にバキィッ!ってな~」
「あれには父も顔を真っ青にして。おかげで秘蔵してあった『魔力付与の弓』は、私に強い弓を引くための力を与える物じゃなくて、矢に魔力を纏わせていただけって理解してもらえたんですけどね~。あの後からいろいろおじ様が強弓を用意してくれたんですけど、やっぱり全部折っちゃって」
今度はアハハと明るく笑ってくれるのを見て、私はホッと溜め息をついた。
「……えぇと?では、君は今何歳……?」
「あ、私は16歳になったんです!先月!!成人から1年経って、まだ『魔力付与の強弓』を引けるのを国王陛下様に披露したら、勇者パーティーに参加するのを許してもらえたんですよ~。本当は兄が魔術師として参加したかったらしいけど、リーダーのケヴィンさんに紹介してもらった時に兄が私のことを『魔術も使えない役立たずの弓使いです』って紹介したら、『兄を加えるのは絶対嫌だ』って言ってくれたんです」
「それはそれは……」
どっちも何か極端な人間と見たが、私としてはどちらと友人になりたいかと言われれば、確実にミウの兄は遠慮したい。
それにしても──確かに若い女の子だとは思ったけれど、まさか成人して1年しか経っていない少女なのに、勇者パーティーに加われるほどの実力者だとは思わなかった。

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