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賢者、勇者のひとりに会う。
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ランダの言葉どおり、その工房兼自宅にはすべての孤児たちがいた。
寝ていた者も叩き起こして連れてきたが、牢に繋がれる心当たりがあるのか、ティグリスの顔を見たとたんに部屋から逃げ出そうとする。
「……はぁ……これはちゃんと償わせるべきだね」
「ああ。さすがに『孤児だから罪』という言いがかりは使わねぇよ」
すでに妨害の術でこの建物からは誰も出られなくしてあるが、探知してもこの1階以外に住人がいる気配はないので、誰も迷惑にはならない。
「んはぁ~~?あっれぇ~~??何で?どうして?出られないよぉ~~~???」
──ひとりだけ、迷惑をかけてしまった。
「お?何だぁ?ミウじゃねぇか?」
「あっれぇ?ティグマスター?何やってんですかぁ?あ、マスターも閉じ込められちゃった?」
可愛らしい声に聞き覚えがあり、私もティグリスの後ろから顔を出してみると、ツインテールの少女がバシバシと工房の扉を叩いていた。
「そっかぁ~。あなたも冒険者ギルドに用があったんですかぁ。ローブとか着てるから、てっきり錬金術師か薬師様かと思ってましたぁ~……あれ?でも……パトリック様って何か……ちょっと違いません?」
冒険者ギルドに戻ってから改めて自己紹介をした後、ツインテールを揺らしてミウは可愛らしく首を傾げた。
ローブに掛かっていた私の顔かたちを誤認させる魔術はまだ2度目に会った彼女には有効なはずなのに、どういうわけか効いていないらしい。
「違う?何が?」
ティグリスも初日からずっと顔を合わせているが、少しずつ術に慣れて私本来の姿かたちを認識しているためか、ミウというその少女の言うことがわからずに首を傾げた。
「うぅ~~……なんて言ったらいいのか……雰囲気?違うなぁ……顔……も少し違うよう……な?」
「ははは」
「……ま、いっかぁ」
私は誤魔化すように笑ったが、ミウはあっさりとその違和感を捨てた。
「それよりもですね!あなた様は『賢者様』なんですかっ?!」
「それよりって……」
あまりの切り替えの早さに逆にティグリスが引いているが、ミウはそんなことも気にせず私に迫ってきた。
確かにお互いの身元を明かすためにそれぞれのステータスや何かを披露していたが、ランクよりも私の『職業』にミウは用があるらしい。
「あのですね!私……というか、私たち!王都で落ち合うことになっている仲間がいるんですけど」
「はぁ……?」
話のとっかかりらしいが、その始まり方と私の『職業』との関連がわからない。
「今現在!王都には『賢者』でフリーの方っていないのです」
「はぁ」
「そんなんで、私たちあちこちに散らばって、『賢者様』を探してるんです!」
「はぁ……あの、何のために……?」
一向にピンとこない。
フリーの賢者?
確かに『賢者』というものはとても曖昧で、錬金術や医学、魔術、時には武力や防御力、戦術を立てる頭脳的な役割を担う。
万能型と言えば聞こえはいいが、時には仲間たちを成長させるための指導役を任されるなど、ある意味器用貧乏極まれりな職業だ。
実際は何かしら及ばない部分があり、かといって特出する才能があるわけでもないから『賢者』という便利な言葉に括られるが、他の特出した『職業』に比べると確かに絶対数は少ないと言える。
私の場合は希少性のおかげで引く手数多、金を稼ぐためならばどこのパーティーでも入れるからという理由ではなく、逆にどこのパーティーに加わらずともある程度は自力で行動でき、そしてたまたま『賢者』に特化した性質を持ったまま転生しているだけなのだ。
「そんなんで!ぜひ、私たちのパーティーに加わってください!!」
「はぁ……あの、どこのパーティー?ですか……?」
それまで呆然としていたティグリスもまた、大きなため息を吐く。
「何だ……わざわざこんな町に来て『人をさがしてます』なんて言うから、てっきり迷い人の探索依頼を受けていたのかと思ったら……マジの人材探しかよ……そしてパトリック……お前、こいつのこと知らねぇの?」
「え?うん、知らない。私の住んでいたしゅ……村にある小さいギルドはあんまり機能してなかったから、行ったこともなくて」
元々『今』の私はこの国の人間ではないため冒険者としての登録は出身国で行っていたし、『見習い賢者』から『賢者』になったのもリムを通して、3国共通認識として王宮へ届けられている。
わざわざ民間のギルド施設から申請する必要もなかったため、村営ギルドを通す必要も無かったのだ。
「マジか……そういや、お前のギルドカード、職業以外には何もなかったな……」
「えっ?!本当ですか?!討伐記録とか、ランク申請とか更新記録とかもですか?!モグリですかっ!!」
ふたりが私のカードを奪うようにしてオープンステータスを確認する。
「あー……私の『賢者』認定は王宮からの極秘任務の遂行完了によるご褒美みたいなもので……内容は言えないのですが、そのせいで『見習い』から繰り上がった時に、ステータスはすべて消去されたんです」
「で、でも……ランクは……」
私の『賢者』ランクは白い星だけ──AでもSでもなく、特殊ランクである。
「す………」
す?
「すっごぉぉぉぉおおおおおおおおいですっ!!!もう!もうもうもう!!もう~~~~~!!!絶対!絶対絶対ぜぇ~~~~~ったい!!私たちのパーティーにっ!お願いしまっす!!」
目を輝かせたミウが立ち上がり、テーブルに頭をぶつけんばかりの勢いで一礼をする。
「いや……あ、あの……ですから、あなたたちのパーティーって……?」
「あ。私たちはSSランク!勇者パーティーで名前を『白雷の翼』って言います!!」
ようやく彼女の目的の一端がわかった。
寝ていた者も叩き起こして連れてきたが、牢に繋がれる心当たりがあるのか、ティグリスの顔を見たとたんに部屋から逃げ出そうとする。
「……はぁ……これはちゃんと償わせるべきだね」
「ああ。さすがに『孤児だから罪』という言いがかりは使わねぇよ」
すでに妨害の術でこの建物からは誰も出られなくしてあるが、探知してもこの1階以外に住人がいる気配はないので、誰も迷惑にはならない。
「んはぁ~~?あっれぇ~~??何で?どうして?出られないよぉ~~~???」
──ひとりだけ、迷惑をかけてしまった。
「お?何だぁ?ミウじゃねぇか?」
「あっれぇ?ティグマスター?何やってんですかぁ?あ、マスターも閉じ込められちゃった?」
可愛らしい声に聞き覚えがあり、私もティグリスの後ろから顔を出してみると、ツインテールの少女がバシバシと工房の扉を叩いていた。
「そっかぁ~。あなたも冒険者ギルドに用があったんですかぁ。ローブとか着てるから、てっきり錬金術師か薬師様かと思ってましたぁ~……あれ?でも……パトリック様って何か……ちょっと違いません?」
冒険者ギルドに戻ってから改めて自己紹介をした後、ツインテールを揺らしてミウは可愛らしく首を傾げた。
ローブに掛かっていた私の顔かたちを誤認させる魔術はまだ2度目に会った彼女には有効なはずなのに、どういうわけか効いていないらしい。
「違う?何が?」
ティグリスも初日からずっと顔を合わせているが、少しずつ術に慣れて私本来の姿かたちを認識しているためか、ミウというその少女の言うことがわからずに首を傾げた。
「うぅ~~……なんて言ったらいいのか……雰囲気?違うなぁ……顔……も少し違うよう……な?」
「ははは」
「……ま、いっかぁ」
私は誤魔化すように笑ったが、ミウはあっさりとその違和感を捨てた。
「それよりもですね!あなた様は『賢者様』なんですかっ?!」
「それよりって……」
あまりの切り替えの早さに逆にティグリスが引いているが、ミウはそんなことも気にせず私に迫ってきた。
確かにお互いの身元を明かすためにそれぞれのステータスや何かを披露していたが、ランクよりも私の『職業』にミウは用があるらしい。
「あのですね!私……というか、私たち!王都で落ち合うことになっている仲間がいるんですけど」
「はぁ……?」
話のとっかかりらしいが、その始まり方と私の『職業』との関連がわからない。
「今現在!王都には『賢者』でフリーの方っていないのです」
「はぁ」
「そんなんで、私たちあちこちに散らばって、『賢者様』を探してるんです!」
「はぁ……あの、何のために……?」
一向にピンとこない。
フリーの賢者?
確かに『賢者』というものはとても曖昧で、錬金術や医学、魔術、時には武力や防御力、戦術を立てる頭脳的な役割を担う。
万能型と言えば聞こえはいいが、時には仲間たちを成長させるための指導役を任されるなど、ある意味器用貧乏極まれりな職業だ。
実際は何かしら及ばない部分があり、かといって特出する才能があるわけでもないから『賢者』という便利な言葉に括られるが、他の特出した『職業』に比べると確かに絶対数は少ないと言える。
私の場合は希少性のおかげで引く手数多、金を稼ぐためならばどこのパーティーでも入れるからという理由ではなく、逆にどこのパーティーに加わらずともある程度は自力で行動でき、そしてたまたま『賢者』に特化した性質を持ったまま転生しているだけなのだ。
「そんなんで!ぜひ、私たちのパーティーに加わってください!!」
「はぁ……あの、どこのパーティー?ですか……?」
それまで呆然としていたティグリスもまた、大きなため息を吐く。
「何だ……わざわざこんな町に来て『人をさがしてます』なんて言うから、てっきり迷い人の探索依頼を受けていたのかと思ったら……マジの人材探しかよ……そしてパトリック……お前、こいつのこと知らねぇの?」
「え?うん、知らない。私の住んでいたしゅ……村にある小さいギルドはあんまり機能してなかったから、行ったこともなくて」
元々『今』の私はこの国の人間ではないため冒険者としての登録は出身国で行っていたし、『見習い賢者』から『賢者』になったのもリムを通して、3国共通認識として王宮へ届けられている。
わざわざ民間のギルド施設から申請する必要もなかったため、村営ギルドを通す必要も無かったのだ。
「マジか……そういや、お前のギルドカード、職業以外には何もなかったな……」
「えっ?!本当ですか?!討伐記録とか、ランク申請とか更新記録とかもですか?!モグリですかっ!!」
ふたりが私のカードを奪うようにしてオープンステータスを確認する。
「あー……私の『賢者』認定は王宮からの極秘任務の遂行完了によるご褒美みたいなもので……内容は言えないのですが、そのせいで『見習い』から繰り上がった時に、ステータスはすべて消去されたんです」
「で、でも……ランクは……」
私の『賢者』ランクは白い星だけ──AでもSでもなく、特殊ランクである。
「す………」
す?
「すっごぉぉぉぉおおおおおおおおいですっ!!!もう!もうもうもう!!もう~~~~~!!!絶対!絶対絶対ぜぇ~~~~~ったい!!私たちのパーティーにっ!お願いしまっす!!」
目を輝かせたミウが立ち上がり、テーブルに頭をぶつけんばかりの勢いで一礼をする。
「いや……あ、あの……ですから、あなたたちのパーティーって……?」
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ようやく彼女の目的の一端がわかった。
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