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賢者、勇者のひとりに会う。
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見て見ぬ振りをするどころか、見ることに興味も持たず、年端も行かない子供を痛めつけ、甚振り、しかも路上で性犯罪の末に捨てられていても「自業自得だ」と嘲笑って。
それを見た貴族たちは、飼い慣らして牙の抜けた番犬に怯える平民をさらに嘲笑い、自分たちが至上の選民だと自惚れているのだろう。
「……少し、時間をくれ」
「あぁ?」
「まずはお前の『きょうだい』を連れてきた。次はお前のいた孤児院だと思っていた……だが、この問題は、そんな簡単なもんじゃない」
「ようやくわかったのかよ」
子供に鼻で笑われても、ギルドマスターは逆上しなかった。
いや、できなかったのだろう。
根は深い。
ひょっとしたらこの町だけでなく、様々な町で、市で、そして貴族の土台の一部をひっくり返しかねない。
「まずは行方不明の孤児たちを探す。ひとり残らず探す……お前の協力が必要だ。頼む。俺たちでは見えないものを、教えてくれ」
上半身を最大限に折り曲げ、ギルドマスターがリアムに頭を下げた。
そんなことをされたことがないリアムが逆に恐ろしいものを見たような顔で私に縋りつき、妹を床に落としそうになって慌てて抱え直してからまた私の服を掴む。
「……な、何だよっ」
「都合が良すぎる。今までさんざん足蹴にしてきた相手に『自分たちでは手に負えないから助けろ』?無償で?『頼む』と言えばこの子たちが今までのことをすべて水に流して快く協力するとでも?たとえリアム自身が『いいよ』と言ったとしても、『先生』として私が許しませんよ」
「せ、先生……?」
「探した後は?救い出したからどうする?また路上に放り出す?身体を弄ばれるか、暴力を振るわれるか、盗みをすることでしか生かしてもらえなかった者たちを?」
「そっ…それはっ……その後のことはっ……追い追い考え……」
「あぁんっ?!アホか、お前らはっ!!立派な建物も仕事も財産もあるんだろうがっ?!とっとと疑わしい孤児院全部をギルドの全財産を使って買収してこいっ!膿ならこの子たちに振るった手段でさっさと一掃しろ!この子に聞くより早く『お得意先』がわかるだろうがっ!!」
「ヒッ!ヒハッ!!はひぃィぃ───ッ!!!」
そうしてギルドマスターを追い出してから5日後には、私の自室として提供してもらっているギルドマスター専用フロアには、表情の死んだ少女たちが幾人も送り込まれてきた。
「やればできるじゃないか……」
私は呆れた。
魔法を使ったわけでも、服従の術を掛けたわけでもない。
だが冒険者ギルドの職員の中でも子供好きだった女性たちが中心となってその子たちの世話を買ってくれ、少なくとも身体の状態を調べることはできた。
当然ながら妊娠している子もいて──さらにその前に『買われた』少女の子供の面倒を見ていたこともわかった。
「もう!まとめて連れてきてくださぁぁぁ───いっ!!」
ものすごい勢いで女性職員に怒鳴りつけられ、ギルドマスターは慌ててその子供たちの保護にも回る。
子供ができたからと貴族の『人形』から『格下げ』され、使用人の慰み物になっていた者もいたが、さすがにそれはあんまりだと女性使用人に匿われていた少女もいた。
でもそれはごく一部で──
「……なあ……俺らが『守ってきたもの』って何だったんだよぉ……」
初め会った時こそ私やリアムをバカにした態度だったギルドマスターが、ガクリと肩を落として赤く染まった身分証を何十枚も手にして泣いていた。
享年は──十代半ば、もしくはそれにすら至らない。
中には孤児院に秘かに隠されていた物もあり、尊敬されていた院長が行っていた鬼畜の所業が露わになり、破壊されてしまった院もある。
「……容れ物に罪はないから、この子たちの住む場所としてそっとしておいてもらいたかったんですけどねぇ~」
「す、すまない……町民の暴動がひどくて……今回は、さすがに……」
幸いなのは、そうやって壊されて追い出される形になった子供たちを、一時的にでも預かってくれるという商人が次々と現れたことだ。
その中から上手いこと使える子供を見つけたら引き取るつもりなのは見え見えだが、あちらは違法売買に寄らず人手を確保し、こちらは金を出さずに子供たちの面倒を見てもらえる──どちらにも少しずつ利があるため、大人の都合で移動させられる子供たちには悪いと思いつつ合意した。
それを見た貴族たちは、飼い慣らして牙の抜けた番犬に怯える平民をさらに嘲笑い、自分たちが至上の選民だと自惚れているのだろう。
「……少し、時間をくれ」
「あぁ?」
「まずはお前の『きょうだい』を連れてきた。次はお前のいた孤児院だと思っていた……だが、この問題は、そんな簡単なもんじゃない」
「ようやくわかったのかよ」
子供に鼻で笑われても、ギルドマスターは逆上しなかった。
いや、できなかったのだろう。
根は深い。
ひょっとしたらこの町だけでなく、様々な町で、市で、そして貴族の土台の一部をひっくり返しかねない。
「まずは行方不明の孤児たちを探す。ひとり残らず探す……お前の協力が必要だ。頼む。俺たちでは見えないものを、教えてくれ」
上半身を最大限に折り曲げ、ギルドマスターがリアムに頭を下げた。
そんなことをされたことがないリアムが逆に恐ろしいものを見たような顔で私に縋りつき、妹を床に落としそうになって慌てて抱え直してからまた私の服を掴む。
「……な、何だよっ」
「都合が良すぎる。今までさんざん足蹴にしてきた相手に『自分たちでは手に負えないから助けろ』?無償で?『頼む』と言えばこの子たちが今までのことをすべて水に流して快く協力するとでも?たとえリアム自身が『いいよ』と言ったとしても、『先生』として私が許しませんよ」
「せ、先生……?」
「探した後は?救い出したからどうする?また路上に放り出す?身体を弄ばれるか、暴力を振るわれるか、盗みをすることでしか生かしてもらえなかった者たちを?」
「そっ…それはっ……その後のことはっ……追い追い考え……」
「あぁんっ?!アホか、お前らはっ!!立派な建物も仕事も財産もあるんだろうがっ?!とっとと疑わしい孤児院全部をギルドの全財産を使って買収してこいっ!膿ならこの子たちに振るった手段でさっさと一掃しろ!この子に聞くより早く『お得意先』がわかるだろうがっ!!」
「ヒッ!ヒハッ!!はひぃィぃ───ッ!!!」
そうしてギルドマスターを追い出してから5日後には、私の自室として提供してもらっているギルドマスター専用フロアには、表情の死んだ少女たちが幾人も送り込まれてきた。
「やればできるじゃないか……」
私は呆れた。
魔法を使ったわけでも、服従の術を掛けたわけでもない。
だが冒険者ギルドの職員の中でも子供好きだった女性たちが中心となってその子たちの世話を買ってくれ、少なくとも身体の状態を調べることはできた。
当然ながら妊娠している子もいて──さらにその前に『買われた』少女の子供の面倒を見ていたこともわかった。
「もう!まとめて連れてきてくださぁぁぁ───いっ!!」
ものすごい勢いで女性職員に怒鳴りつけられ、ギルドマスターは慌ててその子供たちの保護にも回る。
子供ができたからと貴族の『人形』から『格下げ』され、使用人の慰み物になっていた者もいたが、さすがにそれはあんまりだと女性使用人に匿われていた少女もいた。
でもそれはごく一部で──
「……なあ……俺らが『守ってきたもの』って何だったんだよぉ……」
初め会った時こそ私やリアムをバカにした態度だったギルドマスターが、ガクリと肩を落として赤く染まった身分証を何十枚も手にして泣いていた。
享年は──十代半ば、もしくはそれにすら至らない。
中には孤児院に秘かに隠されていた物もあり、尊敬されていた院長が行っていた鬼畜の所業が露わになり、破壊されてしまった院もある。
「……容れ物に罪はないから、この子たちの住む場所としてそっとしておいてもらいたかったんですけどねぇ~」
「す、すまない……町民の暴動がひどくて……今回は、さすがに……」
幸いなのは、そうやって壊されて追い出される形になった子供たちを、一時的にでも預かってくれるという商人が次々と現れたことだ。
その中から上手いこと使える子供を見つけたら引き取るつもりなのは見え見えだが、あちらは違法売買に寄らず人手を確保し、こちらは金を出さずに子供たちの面倒を見てもらえる──どちらにも少しずつ利があるため、大人の都合で移動させられる子供たちには悪いと思いつつ合意した。
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