すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、勇者のひとりに会う。

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「……だそうですけど?あなたはどうやら幼女買春には関わっていないみたいだけど……そちらのお嬢さんは、知っているみたいですねぇ?」
ふっと視線を逸らした受付嬢に矛先を向けると、対峙した男もそちらを向いた。
「だ…だ、だだだだだって……だってっ……わ、私が見逃さないと、わ、わわわ……私がっ……私も孤児でっ……こ、ここに売られてきたからっ……私を代わりにするって……ま、まだ13歳だったから、十分にたの、愉しめっ……」
さすがに耐えきれなくなったのか、女性の姿はカウンターの下に消える。
「……誰か、介抱してやれ。ついでに聴取も取っておけ」
冒険者上がりらしい年配の女性が奥から近づき、軽々と意識のない身体を持ち上げて一礼すると、救護室の方へと運んでいった。
「……あいつは俺がまだギルドマスターになる前に、13歳なのに受付嬢として雇われたんだ。てっきり前マスターか冒険者の関係者……誰かの忘れ形見かと思っていたんだ。すまない……その……そいつのことも……まさか、自分の妹だとは……」
「言ったろう?!あん時、そう言った!!なのに…なのにっ……」
ブルブルと震えながら、少年は真剣な顔で睨みつけながらギルドマスターだというその男に怒鳴る。
少年が手当てを受け、ついでに読み書きを教えてもらっている間に、乳飲み子だった妹はこの少年の父親だと名乗った男の手に落ちていた。
そしてそれをネタに、少年自身が自ら男のところに身を寄せねばならないようにしたのである。
「この町、ずいぶん暗部があるみたいですねぇ?しかも、それを正すための組織から腐っているときた」
「ウッ………」
私がそう嘲笑うと、ギルドマスターは気まずそうに眼を逸らした。
ただ──見たこともない人間がここまで言ってもキレないということは心当たりを隠すつもりも、見逃すつもりもないのかもしれない。
「では、先ほど彼女に拒否された依頼を受けていただけますか?」
「お…おう?いったい何を依頼……?」
「これです」
私が入ってきて職業審査依頼書の裏に書いたものを見せる。

『孤児行方不明者探索及び軽犯罪未成年者元締めの調査』

「……確かに、これは『冒険者』には出せない依頼だ」
「そうでしょうね」
この町に住んで生活している者ならともかく、大半は単に一時的な拠点を置き、魔物や獣退治を請け負ったりダンジョン探索をし、用が無くなれば別の土地へ行ってしまう──つまり、真剣に身寄りのない子供たちを探すとは限らないのだ。
「どうであれ、俺たち自衛団を引っ張り出すための依頼かよ」
「あなたたちの町の問題でしょう?」
「そ、そうだよな……」
私とて縁ができてしまった以上、この少年をここに置いて立ち去る気はない。
むしろ解決するまで居座るつもりである。
「当座、この町に宿を決めたいのだけれど」
「いや、この上にギルドマスター専用のフロアがある。家族もいないのに贅沢だと思っていたが、あんたが好きに使ってくれていい。逆にどこかの宿で面倒を起こされても、それこそ町の迷惑だ。起こすのはあんたじゃなくて、あんたを始末しようとする奴らだろうと思うけどな」
クイッと階段の方を指し示され、ついてくるようにと言われた。
「この子は……?」
「あ?当然お前と一緒にここにいてもらう。なんだったら妹も連れて来い」
「……他にも、双子と、もうひとり女の子がいる。たぶん、双子の女の子の方がヤバい。俺より2歳下だけど、同じ歳の女の子が本当はもう1人いたんだけど……半年前に、男が別のやつに売ってた……『正真正銘、生娘だ。手を出す前に買われると思わなかった』って笑ってた。俺が聞いていると知っていたら、きっと俺は殺されていた……でも……助け、たかっ……」
「……その子の行方もまとめて調べる。すまなかった。お前の『家』を教えろ。俺が直々に潰してきてやる」
「ほ…ほんと……かよ……?」
「はぁ~~……孤児院もいくつ潰せばいいのか……前ギルドマスターオヤジも潰しておくか……」
溜め息をつきつつ、ギルドマスターの顔は怒りに燃え、さらに物騒なことを呟く。
「まずは俺らの自衛団を潰さねぇとな……」

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