23 / 248
賢者、勇者のひとりに会う。
6
しおりを挟む
それにしても賑やかだ。
いつの間にかザイは立派に『町』の中でも大きい部類に発展したようで、大きな通りのに建つ建物には様々な商品を見せ窓に並べたり、作業場を覗けるようにしたり、どういうギルドなのかわかる看板がぶら下がっているのに気を取られていると、先ほどの少女より幼い少年が私の横を通り過ぎかけた。
「っう?!」
おそらく暢気そうな旅人だと侮ってきたのだろう──少年の手が私の腰バックに貼りついていた。
「……ああ、それね?万が一があるといけないから、盗難防止の術が込められているんだよね。『ごめんなさい。もうしません』って言えば剥がれるんだけど、それが心から反省した言葉じゃないと、ず~っとそのままなんだよねぇ」
「なっ…ちっくしょぉ……」
私がにっこり笑って告げると、反省するどころかギロリと睨まれる。
「ど、どうしましたっ?この子が何かっ?!」
側にいた父親らしき中年が近付いてきてペコペコ頭を下げながら、その子を引き剥がそうとし──同じように腰バッグに手が貼り付いた。
「う~ん……困りましたねぇ。この子がしようとした『何か』を、保護者であるあなたもしようとした……と。私がこのバッグに術を掛けたわけじゃないんで、解呪するならケイミ村まで行かないといけないんですよねぇ……」
「え、ケイミィ?!あ……あんなとこ……行くのに3日もかかる……」
「あー……まぁ、そうでしょうねぇ」
私はリムに教えてもらった縮地術で人目に付かないようにしながらサクサク進んだが、確かに普通の人の足ならそれぐらいかかるだろう。
しかも今の彼は子供に合わせるように腰をかがめ、私に向かい合う姿勢だから、私が前に進むと彼は後ろ歩きをしないといけない。
「それにこの愉快な3人組を馬車で乗せてくれる人もいなさそうですしねぇ。たぶん冒険者ギルドに行けば、解呪できる人もいるかもしれないんで、一緒に行きましょう?」
「えっ……」
サァッと男の顔が青褪めたところを見ると、おそらく冒険者ギルドでは町の自衛を請け負う役目もあるのを知っているのだろう。
私も以前の人生の中で「護衛の仕事が出るまで、短期間で自衛団の手伝いしないと……」と繋ぎでやったこともあった。
特に大きな商団が遠い領地からやってきて露店を広げると、見知らぬ人たちに対して乱暴を働いたり、金銭を巻き上げようとするならず者が必ず湧くのだが──あれはいったいどういう法則なんだろう?
「そんなわけなので、さあ行きましょう!」
私が元気にそう言って、先ほどまでのゆったりした歩みを止めてスタスタ歩きだすと、男も少年も血の気が引いた顔で何とか私を引き留めようと足を踏ん張った。
残念ながら身体強化の魔術も使える私にとって意味はなく、ついでに彼らの足もほんのわずかに浮かせて抵抗を失くしてやると、面白いぐらいにスルスルと奥の建物に近付いていく。
「……君、この人の子供じゃないよね?」
「えっ?!」
キョロキョロと少年が辺りを見回し、それから私の顔を見上げた。
口の端だけで笑うと、サッと視線を男の方に泳がせてから顔を背ける。
「私ねぇ、お使いの子がほしいんだけど、この男と一緒に自衛団に連れて行かれるのと、どっちがいい?」
「いっ、嫌だ!!自衛団は嫌だっ!!」
うん、知ってる。
自衛団は『自衛』とついているが、自分たちの身を護るわけではなく、見せしめのためならばと、身寄りのない子供でも『犯罪者』として人前で酷く暴力を振るう輩もいると想像がついた。
「そっかぁ~、嫌かぁ~。じゃあ、君はこの仕事、初めてじゃないんだぁ~」
「おっ、俺は違う!!いつもはコイツひとりでやらせるんだっ!俺は初めてなんだっ!み、見逃してくれぇっ?!」
私がさっきまで少年にだけ向かって言った言葉とは別に、わざと男にも聞こえる声でそう言うと、見苦しい勢いで男が初犯を主張した。
「あっ、そう~」
そう言うとパッと男の手が離れ、踏ん張っていた男の身体がゴロンと後ろに転がり、慌てて人混みに紛れていく。
いつの間にかザイは立派に『町』の中でも大きい部類に発展したようで、大きな通りのに建つ建物には様々な商品を見せ窓に並べたり、作業場を覗けるようにしたり、どういうギルドなのかわかる看板がぶら下がっているのに気を取られていると、先ほどの少女より幼い少年が私の横を通り過ぎかけた。
「っう?!」
おそらく暢気そうな旅人だと侮ってきたのだろう──少年の手が私の腰バックに貼りついていた。
「……ああ、それね?万が一があるといけないから、盗難防止の術が込められているんだよね。『ごめんなさい。もうしません』って言えば剥がれるんだけど、それが心から反省した言葉じゃないと、ず~っとそのままなんだよねぇ」
「なっ…ちっくしょぉ……」
私がにっこり笑って告げると、反省するどころかギロリと睨まれる。
「ど、どうしましたっ?この子が何かっ?!」
側にいた父親らしき中年が近付いてきてペコペコ頭を下げながら、その子を引き剥がそうとし──同じように腰バッグに手が貼り付いた。
「う~ん……困りましたねぇ。この子がしようとした『何か』を、保護者であるあなたもしようとした……と。私がこのバッグに術を掛けたわけじゃないんで、解呪するならケイミ村まで行かないといけないんですよねぇ……」
「え、ケイミィ?!あ……あんなとこ……行くのに3日もかかる……」
「あー……まぁ、そうでしょうねぇ」
私はリムに教えてもらった縮地術で人目に付かないようにしながらサクサク進んだが、確かに普通の人の足ならそれぐらいかかるだろう。
しかも今の彼は子供に合わせるように腰をかがめ、私に向かい合う姿勢だから、私が前に進むと彼は後ろ歩きをしないといけない。
「それにこの愉快な3人組を馬車で乗せてくれる人もいなさそうですしねぇ。たぶん冒険者ギルドに行けば、解呪できる人もいるかもしれないんで、一緒に行きましょう?」
「えっ……」
サァッと男の顔が青褪めたところを見ると、おそらく冒険者ギルドでは町の自衛を請け負う役目もあるのを知っているのだろう。
私も以前の人生の中で「護衛の仕事が出るまで、短期間で自衛団の手伝いしないと……」と繋ぎでやったこともあった。
特に大きな商団が遠い領地からやってきて露店を広げると、見知らぬ人たちに対して乱暴を働いたり、金銭を巻き上げようとするならず者が必ず湧くのだが──あれはいったいどういう法則なんだろう?
「そんなわけなので、さあ行きましょう!」
私が元気にそう言って、先ほどまでのゆったりした歩みを止めてスタスタ歩きだすと、男も少年も血の気が引いた顔で何とか私を引き留めようと足を踏ん張った。
残念ながら身体強化の魔術も使える私にとって意味はなく、ついでに彼らの足もほんのわずかに浮かせて抵抗を失くしてやると、面白いぐらいにスルスルと奥の建物に近付いていく。
「……君、この人の子供じゃないよね?」
「えっ?!」
キョロキョロと少年が辺りを見回し、それから私の顔を見上げた。
口の端だけで笑うと、サッと視線を男の方に泳がせてから顔を背ける。
「私ねぇ、お使いの子がほしいんだけど、この男と一緒に自衛団に連れて行かれるのと、どっちがいい?」
「いっ、嫌だ!!自衛団は嫌だっ!!」
うん、知ってる。
自衛団は『自衛』とついているが、自分たちの身を護るわけではなく、見せしめのためならばと、身寄りのない子供でも『犯罪者』として人前で酷く暴力を振るう輩もいると想像がついた。
「そっかぁ~、嫌かぁ~。じゃあ、君はこの仕事、初めてじゃないんだぁ~」
「おっ、俺は違う!!いつもはコイツひとりでやらせるんだっ!俺は初めてなんだっ!み、見逃してくれぇっ?!」
私がさっきまで少年にだけ向かって言った言葉とは別に、わざと男にも聞こえる声でそう言うと、見苦しい勢いで男が初犯を主張した。
「あっ、そう~」
そう言うとパッと男の手が離れ、踏ん張っていた男の身体がゴロンと後ろに転がり、慌てて人混みに紛れていく。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる