すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、転生する。

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うっかりしていたと言っていいのだろうか──リラは言わずもがな、双子の『弟子』たちは25歳。
20歳の誕生日を迎えて少ししか経っていない私なんかが『師匠』面していていいのか?そんな葛藤が頭をよぎるが、ジロリとリラに睨まれる。
「先生……どうせまた『私みたいな若いのが』とか、勝手に思ってるんでしょう?いいんですよ。大事なのはとしじゃありません。どんな経験を積んでいるか・・・・・・・・・・・・です。わかりますか?私が言っていること。あなた様の持っている知識は五歳年上のこの子たちどころか、私が長年培ってきたものすら凌駕するのです!だから『師匠』として胸を張っていいんですよ!」
「そうですよ!師匠!!どんなに研究を重ねたとしても、どんなに書物を読もうとも、それを実践した経験ってものには敵わないんですよ」
「そー、そー。俺もローも『言語学研究者』なんて偉そうな肩書をもらってたけど、けっきょくは近隣諸国の言語を相互訳するぐらいしかできないんですから。師匠はそれに加えて、古代語まで訳せてしまう」
「いや、そんな……辞書と格闘してやっと……ですよ。皆さんの方がやっぱりいろいろと……私なんかより……ムグゥ!!」
言っているうちにやはり私は驕っていたのではないかと自省が強くなってきたら、ムギュッと口を摘ままれ、リラの顔がグッと近付いた。
「もう!いいかげん諦めてください!!あなたが積み重ねてきた経験が消えないのは、もうご自身でわかっているでしょう?!今のご自分に引っ張られずに、ちゃんと現実を見て、私たちをそれぞれ見てください!あなたが積み重ねたその時間は、失ってしまう私たちの時間よりも貴重で尊くて、素晴らしいものなんですから!!」
怒っているのに泣きそうなその顔を見て、私は改めて目の前にあるリラの顔、双子の顔をそれぞれしっかりと見直す。
幼い──大人であるけれど、私から見るとまだまだ『子供』だ。
私はいったい何人の顔を、こうやってはっきりと見ただろうか。
「……そう、ですね……」
何となく泣きそうになったが、辛そうな彼らの顔を見て、私はあることに気付く。
「……ひょっとして……リラ、だけじゃなく……ローレンスも、マーリウスも……?」
コクンと頷くのを見て、私は愕然とした。
「その……すいません」
「ローレンスと一緒に訳していた本のひとつに、師匠の過去に繋がる物があって……『魔王』ってマジか?って気が付いて、いろいろ読み直しちゃったら、1本の線が見えてきちゃって」
申し訳なさそうに頭を掻くマーリウスを庇うように、リラが頷いた。
「それ、私も気が付いていました。不思議なんですけど、先生のことが書いてある部分だけ、文字が浮かんで見えるようになって……同じ現象がこの子たちにも起こっていることがわかったら……黙っていることができませんでした……」

どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。

私が思ったのは、それだけだった。
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