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賢者、転生する。
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繰り返すうちに私が就く職業は、剣士や魔術師、魔法師、薬師、賢者──と、冒険者として認められているものに特化していった。
魔族にしてみればどれも短いとは『人間』として積み重ねてきた経験を、どうにか魂に貯めておく術を見つけた私は、ようやくどの職業も『一流』と言われるAランクの腕前となれたのである。
気が付けば私のその時の名前はたびたび歴史に刻まれるほどとなり、ここ数回の転生では『魔王討伐』の任に当たった者として名を連ねたことまで思い出し、私は思わず赤面した。
「はぁ~……いや、しかしこんな古代語の翻訳でここまで思い出せるとは……経験とは積んでおくも…の……?」
いや、今まで訳していたものをよくよく読み返してみれば、それは何ということか──私が過去に書き残したものであると予想はしていたが、それは私のみに作用するようにと巧妙に隠された暗号であるのに気付いた。
私以外の人間が古代語を勉強して解読しても何の変哲もない英雄譚や神話や伝説といった類の無邪気なものなのだが、『私』という魂を持った者が触れると、否応なく反応するというトラップじみた呪文が隠されており、その光り浮かぶ文字を声に出すと──
気が付けば私は膨大な知識と記憶に耐え切れずに気を失い、自分の古い家からほど近い村の診療所に寝かされていた。
運び込んでくれたのは国から認められた探索者たちだという。
「いや、驚きました!王立図書館から盗まれた古代語文献が見つかったという報を受けて、その者の館に乗り込んだら、その禁忌書を持った少年が逃亡したと言われて……」
「禁忌書?」
「ええ。あれは今まで誰も解き明かせなくて、とても危険な呪文が載っているかもしれないと言われていたんです」
私は思わず唖然としてしまった。
確かに今では誰も読めない本だったかもしれないが──私以外の人間にはまったくの無害な単なる冒険小説なのに、読める人がいない故に何やら有り難くも恐ろしい物として取り扱われていたらしい。
「あ……あの……ですね……」
事実を話すのは恥ずかしいが、『私の過去を解放する呪文』が記載されていたということ以外は素直に話し、今回翻訳を任された本はまったくの無害であることを説明した。
「いや、そんな……あの本には確かに邪悪な気配がすると……って……え?」
私が倒れた際にそばに落ちていた本の中身も確かめず、古代語の本と共に訳本も持ってきてくれたようであったが、念のためと上掛けされた封印を解いてもらうと、その『気配』とやらは綺麗に消えていた。
「えぇぇっ?!あ、あんなにどす黒い気配が……もう、こうねっとりと纏わりつくように、あなたを取り込もうとしているかのようだったのに……何故……?」
「ア…アハハハ~……ひょっとして、私が訳してしまったから、その……何か『読んでくれ~』という作者からの怨念みたいなものも浄化されてしまった…のかも…とか、何とか……」
口から出まかせに言ってみると、一瞬間があった後、思いっきり納得したような顔で騎士やら魔術師やらは顔色を明るくした。
「なるほどなるほど!!」
「ああ~~~っ!!!だからですか!道理で、あなたが目覚めた瞬間にグワッ!!とこう!魔力が物凄く、破裂するかの勢いで膨れたのですよ!ええ!気の弱い魔獣なら逃げるどころか、存在消滅までしちゃいそうなぐらいのねぇ!!」
キラッキラの目で魔術師が両手をワキワキさせながら『グワッ!!』を表現するように頭上に持ち上げると、騎士どころか側にいた村医師までうんうんと頷く。
いえ──その『どす黒い気配』はきっと、本の中に封印していた私の記憶と経験と、推測通り私自身の魔力でしょう。
そう思ったけれど、たぶんそれだけでは、きっとない。
あいつ──あの『魔王』がきっとこの本をいつか私自身が手にすることを予想か予知をして、没後に『自分の匂い』を残したのに違いないと思いあたる。
魔族にしてみればどれも短いとは『人間』として積み重ねてきた経験を、どうにか魂に貯めておく術を見つけた私は、ようやくどの職業も『一流』と言われるAランクの腕前となれたのである。
気が付けば私のその時の名前はたびたび歴史に刻まれるほどとなり、ここ数回の転生では『魔王討伐』の任に当たった者として名を連ねたことまで思い出し、私は思わず赤面した。
「はぁ~……いや、しかしこんな古代語の翻訳でここまで思い出せるとは……経験とは積んでおくも…の……?」
いや、今まで訳していたものをよくよく読み返してみれば、それは何ということか──私が過去に書き残したものであると予想はしていたが、それは私のみに作用するようにと巧妙に隠された暗号であるのに気付いた。
私以外の人間が古代語を勉強して解読しても何の変哲もない英雄譚や神話や伝説といった類の無邪気なものなのだが、『私』という魂を持った者が触れると、否応なく反応するというトラップじみた呪文が隠されており、その光り浮かぶ文字を声に出すと──
気が付けば私は膨大な知識と記憶に耐え切れずに気を失い、自分の古い家からほど近い村の診療所に寝かされていた。
運び込んでくれたのは国から認められた探索者たちだという。
「いや、驚きました!王立図書館から盗まれた古代語文献が見つかったという報を受けて、その者の館に乗り込んだら、その禁忌書を持った少年が逃亡したと言われて……」
「禁忌書?」
「ええ。あれは今まで誰も解き明かせなくて、とても危険な呪文が載っているかもしれないと言われていたんです」
私は思わず唖然としてしまった。
確かに今では誰も読めない本だったかもしれないが──私以外の人間にはまったくの無害な単なる冒険小説なのに、読める人がいない故に何やら有り難くも恐ろしい物として取り扱われていたらしい。
「あ……あの……ですね……」
事実を話すのは恥ずかしいが、『私の過去を解放する呪文』が記載されていたということ以外は素直に話し、今回翻訳を任された本はまったくの無害であることを説明した。
「いや、そんな……あの本には確かに邪悪な気配がすると……って……え?」
私が倒れた際にそばに落ちていた本の中身も確かめず、古代語の本と共に訳本も持ってきてくれたようであったが、念のためと上掛けされた封印を解いてもらうと、その『気配』とやらは綺麗に消えていた。
「えぇぇっ?!あ、あんなにどす黒い気配が……もう、こうねっとりと纏わりつくように、あなたを取り込もうとしているかのようだったのに……何故……?」
「ア…アハハハ~……ひょっとして、私が訳してしまったから、その……何か『読んでくれ~』という作者からの怨念みたいなものも浄化されてしまった…のかも…とか、何とか……」
口から出まかせに言ってみると、一瞬間があった後、思いっきり納得したような顔で騎士やら魔術師やらは顔色を明るくした。
「なるほどなるほど!!」
「ああ~~~っ!!!だからですか!道理で、あなたが目覚めた瞬間にグワッ!!とこう!魔力が物凄く、破裂するかの勢いで膨れたのですよ!ええ!気の弱い魔獣なら逃げるどころか、存在消滅までしちゃいそうなぐらいのねぇ!!」
キラッキラの目で魔術師が両手をワキワキさせながら『グワッ!!』を表現するように頭上に持ち上げると、騎士どころか側にいた村医師までうんうんと頷く。
いえ──その『どす黒い気配』はきっと、本の中に封印していた私の記憶と経験と、推測通り私自身の魔力でしょう。
そう思ったけれど、たぶんそれだけでは、きっとない。
あいつ──あの『魔王』がきっとこの本をいつか私自身が手にすることを予想か予知をして、没後に『自分の匂い』を残したのに違いないと思いあたる。
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