すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、転生する。

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だが魔王は私が言わんとすることを理解し、ニヤリと笑った。
「いや、『幻覚』とは面白い魔術だな!人間の魔術とやらも勉強しておくものだ。奴ら、メスとして・・・・・あるべき『穴』が無いことを訝しがりながらも、代わりの『穴』でたっぷり種付けしようとしていたからな!当然デキやしないが……内臓の性別を変化させて、オスが孕むような術はないのか?」
「……悪趣味な。私はそんな邪道な術は知らないし、あっても教えてなんかあげません!」
魔族がどうやって子孫を残すのかは知らないが、オスが種付けをし、メスが孕む──その法則は変わらないのか。
私は推測をどうやって確かめようかと考えていると、あっさりとその答えを彼はくれた。
「チッ。不勉強者が……しかし、人間は面倒だ。分裂もせず、子孫を残せるのがつがいの一方でしかないとは。しかも増えるにも時間がかかる。俺は自分の次代を残していないが、だいたい代代わりできるほどに育つまでに20年か?魔族でもそれだけ時間をかけるとどうなるかと面白がって『子』として次代を『育てる』酔狂者までいる」
「……子育てが酔狂か」
「自分の分裂を育てても、やはり『自分』だから面白くないらしい。オークのように見境なく種を植えるのはさすがに気持ち悪いが、人間のように『番』を作るのは楽しいみたいだ。お気に入りというのは、あんがい『大切』に思えるみたいだな」
魔族は同族を愛しいとか、大切だとか思っていなかったのだろうか?
私はずいぶんわかりやすく疑問を顔に浮かべていたようだ。
声に出す前に魔王が答えてくれる。
「俺がこうやって繰り返し会ってしまうお前と一緒に話すのが『楽しい』と思えるのと同じなのだろうな。人間はこういうのを『運命』とか言うのだろう?魔族は元々ひとつの種がどんなに分裂しても、『違い』というものはない。俺が俺1人だろうと、1000人いようと、俺以外が999人に『人間を滅ぼせ』と命令すればその通りに動くだけだ。『動くな』と命令すれば動かないし、『俺と同じ事をしろ』と言えばそうする。それだけの存在だ」
「……仲間というよりは、道具?複数ある手足みたいなものか?」
「そうだな……人間の言葉に直すのは難しい『もの』だな。例えばその999人に『俺を暗殺しろ』と言ったとしても、その暗殺方法は俺自身が考えた手段で、独自性はない。人間のように『自分の意思のある個体』じゃないんだ。つまらないだろう?」
独自の判断や考え方をしない個体ではない分裂したモノ──私には理解しづらい生態系だ。
人間族とは生き方とか倫理観、感情だけでなく、もうその在り方自体が異質すぎて考え込む私に何を思ったのか、不意に魔王は私の将来を訊ねる。
「そういえば…今回は『賢者』を選ぶのか?」
「そうだね。運がいいことに、今回の『私』はどうやらそちらの才能がとてもいいらしい。今までの比でないほど記憶する要領がとてもいいんだ。楽しみだよ。今度こそ、私は『一流以上』になれるかもしれない!」
そう言って目を輝かせた私を見て、魔王はフッと笑って頭を撫でた。
「そうか……では、次こそは俺が負けるかもしれんなぁ。せいぜい魔法を磨けよ。俺は死なんが、お前が封印したら勝ちってことにしてやるからな」

まおうはしなない──

初めて知った事実は、『魔王が人間の子供の頭を撫でている』というあり得ない事態を凌駕した。

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